ここはとある凡夫の住まう一軒家。しかしここには、売ればかなりの値打ちになるであろう中世の明の陶器が保管されていた。細やかな装飾に色彩の美しさのなんたるや…ともかく言葉では表現し難いほどの品である。 それだけ値打ちのあるものだからこそ、こういった平凡な場所に隠しておくのがいいのだ。と凡夫は言った。で、私はその部屋の管理を任されていた。 けたたましい音とともに叩き割られた窓ガラス。 ―――終わった。私は静かにそう悟る。 警備員の中で一番目立たなくてかつ平凡というだけで選抜された私は、根本的に戦闘とかできない。こんな民家が強盗に押し入られるだなんて思ってなかったし。情報っていつどこでもれるか分からないもんだなぁ。ふふふ 「こんなザルな警備生まれて初めてよ」 暗闇から溶けるように聞こえた声。 低くもなく高くもなく、でもどこか禍々しいものを感じてしまうのは、考え過ぎだろうか。 「な、なにものですか!!」 部屋の隅に展示してある陶器を背に、手を広げて叫ぶ。 部屋はそれほど広くは無いが、叫ばないと恐怖で身が縮んでしまう。 「ん?人がいたか。気付かなかたよ」 「帰ってください…こっ、ここには何もありません!」 「嘘よくないね。舌抜かれたいか」 ビクッとすくんだのは見抜かれたらしい。 天窓から差し込む月の光の中に、その人は姿を現した。 黒い服を身にまとった小柄な男。彼が手に持っているのは傘だったが、私にはそれが殺傷力の高い武器なのだろうとすぐに分かった。 男は闇の中にいる私と目を合わせると、動きを止めた。 「…?」 私も手を広げたまま固まった。 なに。なんなの。超怖い…!! (まさか何かの呪いじゃ) 本格的に逃げ腰になった私に、男は一歩近づいた。 「な、なに!?こ、こないで」 「…」 「これはぜったいに渡しませんから…!」 もう男との距離は1メートルを切っている。逃げたい。でも、それすらもできない。どうせ死ぬなら、最後までこれを守り抜いてやる。 しかし意志とは裏腹に膝は震え、気を抜けば今にも崩れ落ちてしまいそうだ。 男の腕が私に伸びた。 ――もうだめだ!ころされちゃう…!! ぎゅっ 「…」 「…」 「………?」 なにこれ。 「……………あの」 絞り出した声で尋ねるより先に、私をしっかり抱きしめていた男が耳元で吐息を溢した。 「ワタシ…今何してるか」 「……え??」 「早く答えないと殺すね」 「!!!だっ、だきしめてます!」 「……そうか」 な、なんなのこのひと何なのこの人!この体勢から絞め殺す気!?それってとっても痛いじゃん止めて誰か助けに来て!! 「オマエが腕広げてたから、抱き締めなきゃいけない気になたね」 「どんな!?」 あ、おもわずつっこんじゃった。 「でも抱き締めたはいいけど……何ねこれは」 「、……?」 「全然離したくないよ」 私は自分の身体に回されている腕に力が込められたのを感じて、潔く理解した。 ――やばいのに捕まってしまった。 「…ワタシより小さいし匂いも甘いし、さきからずーと震えてるのも何かいいね」 「知らないですごめんなさい離してください」 「加虐心そそるよ」 「だれかたすけてーっっ!!」 「決めた。お前持て帰るね」 「え゛」 ぱっと身体が離されたかと思うと、男は私に何かを渡した。明の陶器だった。 「わあぁ」 身体が持ち上がって情けない声が洩れる。 男はさっき割った窓から私を抱えて外に出ると、ありえない跳躍力で隣の家の屋根に飛び、スピードを増しながら闇夜をかけた。 私が言うのも何だけど、あの家警備チョロ過ぎだよ。もう… 私はこれからどこへ連れて行かれるんだろう。 こうなったらこの陶器下におっこどして最後の抵抗を 「馬鹿な考えは捨てることね」 「ギクッ」 「おまえ殺すの簡単よ。」 男は月の下で、心底愉しそうに笑った。 「でも殺さない。その代わり、 ―――痛いのよりもっとすごいのでグチャグチャに泣かしてやるね」 マンマミーア まじでやばいのに捕まってしまった 「言い忘れてた。ワタシは幻影旅団のフェイタンよ」 「マジで死亡フラグじゃないですか回避したいですおうちに帰りたい」 「ワタシ達盗賊よ。欲しいものは全部手に入れるし、そしたらもう手放さないね。受け入れろ、なまえ」 「え……何で私の名前」 「…さあな」 「え」 「よく考えれば分かるかもしれないよ。だから考えろ愚図」 「え、ええええ…」 実は昔一度、博物館の警備員として彼女が働いていたころ、集団強盗として博物館に押し入ったフェイタン達と遭遇していたことは、フェイタンのみぞ知る事であった。 (一目惚れなんて生温いこと言うつもりないけど、) (ワタシはあの時からずーとオマエ狙てたね。――ようやく見つけたよ) ×
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