「すいません、ユースタス・キッドいますか」
「……!?」


この学校で一、二を争う不良と謳われているユースタス・キッド(高校二年)
血の気の多さを前面に押し出した様なギラつく瞳を備え、同色の髪は周りの人間を誰ひとり近づけさせない独立した鮮やかさを放っていた。こんなふうに紹介してみたものの、要するに怖くて近づけないのであった。


「ユ、ユースタスさんなら窓際の席に、ほら……寝てるけど」
「あ。ほんとだ」
「それよりキミまずいよ…?」
「はえ?」
「見たところ後輩だろ。アイツを呼び捨てにするなんて…」
「へ?…あっは、やだー、大丈夫ですって!」
「ええ!ちょっキミ」



二年の教室を物怖じすること無くずかずかと進み、居眠りに入っているキッドの背後に立つなまえ。先程の男子生徒A(以下A男)は後のキッドが怒り出す姿を想像して、身震いする。アイツの眠りを妨げるなんて本当にしたくない!命知らずだ…一体何のつもりで「キッド先輩おーき……て!!」「あ゛?(ガンッ)げふっ」

ええええええ!!!!


後ろから抱きつき、机に顔を伏せていた彼にのしかかる。そして響いたのはキッドの額と机がしたたかにぶつかる音。や…やりやがった!殺される!
内心で悲鳴を上げるA男を余所に、なまえはへらへらと笑っていた。


「ねー先輩、起きてよ。遊びいきましょー!」
「…あんだよてめェか」
「ねえってば行こうよ!」
「いかねー。おら散れ」

このやりとりにはA男だけでなく、クラス全体が唖然とした。
目が合えば保健室、肩がぶつかれば病院送り、喧嘩を売ろうもんなら地獄行きというレッテルさえも貼られているあの男が!?一体何もんだ、あの後輩…!



「はぁ…しかたねェな」

顔を上げたキッドはクラス内の視線がこちらに向いている事に気付き、少し考える素振りを見せた後、ふいになまえを引き寄せてその額に口づけた。

「!!!」

「フン…」
「何すんの?先輩」
「イカク」
「?」

クツクツと笑ってキッドは立ち上がり、なまえの頭を撫ぜた。

「どこ行くか決めてんのか」
「ラーメン!」
「ハッ…も少し女らしくなれよ」
「そのうちね」
キッドは教室を出る際、未だ何も言えずにいるクラスメイト達を一瞥して笑みを浮かべた。

「手、出すなよ」

放課後の独占欲
(出すわけねェ!俺達まだ命が惜しいです!!)

×