「斬殺」 「え?」 「絞殺、撲殺」 「……何?」 「どれがいい」 「……斬殺?」 「分かった」 「いや待って」 スラァッと鞘から刀身を引き抜いたローに両掌を向ける。 「ごめんちょっとよく意味が分からないんだけど」 「相変わらず理解力のねえ女だな」 「風呂上りに自室で読書してて、突然船長が入ってきて、物騒な質問を投げかけてきて、今にも殺されそうになってる、この状況って何?」 「ホラーじゃねぇか?」 「そうだよね。私もそう思う良かった合ってて」 「さあ、お望みの斬殺だ」 「お望んでないんだけど、一旦落ち着いて。誰か冷静な人説明お願いします」 ローには何とか刀をしまわせて事情を聞いた。 「ふむ」ローはペンギン達とポーカーを楽しみながら世間話に興じていたそうだ。そこで、もし私が浮気をしていたらという話になったらしい。 「もしなまえ、お前が俺の知らねえところで他の男と腕を組んだり抱き合ったり乳くり合ったりしてんのかと思ったらもう」 「してないし止めてくんない」 「殺すほかねェかなと」 「多分他あるよ。何で実行に移そうとしたのそんなアホな妄想で」 「妄想ですらこの有様だ、俺は、見ろ、この手汗」 「ほんとだ気持ち悪い。」 「殺すぞ」 とりあえずローが我を忘れてこの部屋まで来たという事だけはよく分かった。あとペンギンとその他諸々の野郎共は明日の朝きっちり制裁を加える事にしよう。 「不安で仕方ねえ」 「……ロー」 「俺は、お前意外の女を好きになった事がないから。こんな時どうしたらいいか分からねェ」 落ち着きなさげに足を組み替えて、ローは目を伏せた。 「お前が好きだ。他の野郎のものになるなんて絶対に許さねェ。――そうなる前に、お前が、俺を好きでいるうちに……殺しちまおうか。」 私は刀を手に取ったローを押し倒した。 ローの手に上から掌を重ねて、少しだけ鞘から抜いた刀を首元に宛てた。 「いいよ」 ローが顔を歪めた。その歯噛みさえ聞こえてきそうだと笑んだところで、持っていた刀が投げ捨てられる。 「鬼哭くんが」 「俺の刀を友達みたいに呼ぶな」 腰に足を引っかけられて、瞬く間にくるりと視界が反転した。 「……本気で殺せると思ってんのか、俺に」 「ちっとも」 「馬鹿野郎」 「ロー」 ローの襟元を掴んでぐっと引き寄せた。 彼もさぞかし真剣だろうが、私だってその度合いは負けてないのだ。 「私は浮気なんてしない」 「……」 「いつも本気だから」 「、冗談聞いてる余裕なんてねェぞ」 「だから、いつも本気だってば」 不服そうな彼の唇を奪う。 細い目がめいっぱい広がって、映り込んだ私は幸せそうに笑っていた。 「本気でローに恋してる。本気でローが大好き」 「、なまえ」 「だからきっとロー以外の男に恋したとしたら、それは浮気じゃなくて超本気ね」 「……俺を不安にさせて楽しいか」 「べつに。でもまあ、私が怒ってるのも理解してくれたら嬉しいな」 本気で大好きなあなたに、浮気を疑われて殺されそうになったんだから。 ローは不貞腐れたように私に覆い被さると、悪かった、と小さな声で謝った。私は彼の背中に腕を回してその温もりを確かめる。――うん。今日も生きてる。 こうして、嫉妬深くて妄想力の激しいローとの一日は幕を下ろす。 命の瀬戸際にもちっとも怖くならないのは、ローが私を好きすぎると自覚があるからなのだ。 「ローも早く、自信持ちなよね」 「……うるせぇ」 下手くそ。 1701071hit ちょっとヘタレなで病んでれロー ×
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