「船長!前方に海賊船です!」
「何!?海賊か!」
「だから海賊船って言ってるだろが!」
「よし、丁度船の食糧が尽きそうだったんだ!襲って金銀財宝食糧etc奪い尽くすぞ!」
「よっ!かっこいい船長!海賊の鏡!」
「キャプテン!あの旗見覚えが」
「何!?」
「たしか……ああ!――億越えルーキー!ユースタス・キャプテン・キッドの船ですアレェ!!」
「面舵いっぱい!!逃げるぞ野郎共ォ!!」「船長だせえ!!」


メーデー!我らが船長は相手がかの大悪党ユースタス・キッドと知って海賊のプライドをブン投げ逃亡を図ったよ!でも残念!気取られた末に砲撃を受けて我らが海賊船タニタニック号見事沈没!後ろ傷もいいところだよ!で!我らが船長は逃げ足だけは素早いので、沈没した船の残骸から小型ボートを引き出して仲間と逃亡!見事ユースタスの魔の手から命からがら逃げだしましたとさ。ブラボー!


「置いてかれた。」
「……」
「奴らものの見事に私を見捨てやがった。」
「……あの船の奴隷か、お前」
「いえ。一端のクルー気取ってました今日まで」

引き上げられた私は全身水浸しのまま、見る限り全方位をいかつい敵船のクルーに囲まれた。質問してきたのは仮面の男だ。

「まあ、太古の昔から生贄には若い娘がもってこいとされていますしね、ハハ」
「こんな貧相な生贄差し出されてもな」
「なんだと!―――こんにちは、ユースタス船長。ご機嫌いかが?」
「何も強奪できねェまま敵船は沈むし戦闘にもならねぇし捕まえたのはこんな価値の見出せねぇ貧相な女だしで、つまるところ最悪だ。」「おたくの船長口悪くない?」


捕まった先の船長がこんだけ悪い噂の根源みたいな人物だとなると、まず、命乞いは無駄だろう。――だが私は生きることを諦めたりしない。


「勝負しましょう、ユースタス・キッド!」
「断る」
「断られた時の事は考えてなかった!!」
「……泣くんじゃねぇようざってえ」
「ひっぐ……うええ、っく、しょ、しょうぶ」
惜しみなく心の汗を垂れ流していたら折れてくれた。案外泣き落としでも行けたかな、これ。
集まっていたクルーを持ち場に戻れと散らし、残ったのは仮面の人含め数人だ。


「ただし、内容による。暇つぶしだ。俺のメリットになること以外はしねえぞ」
「問題なし!私は負けたら死ぬし、勝ったらあなたは有能なクルーが一人手に入る」
「…ハッ言うじゃねえか」
内容は何だ、催促されて、私は腰から濡れた銃を引き抜いた。

「一人ロシアンルーレット」








「あの時は若かった。ほんと若かった」
「度胸示すのに女があんな真似するとは誰も思わねえ」

昔から私が持ち合わせていたのは運と度胸だけだったのだ。とどのつまり、私は一人ロシアンルーレットを見事勝ち抜き、キッド海賊団のクルーになったわけである。ここが案外楽しくて、未だに居座ってしまっている。


「悪運の強い女だ。――――まあ、あの後腰抜かしてたがな」
「もう二度とやりたくない」
「……どうだ。」

ニヤリと笑ったキッドが、自分の腰に差し込んであった銃を引き抜いて私に差し出した。断ろうと目を吊り上げたが、一瞬の躊躇いの所為で声が出る事は無かった。
さっきも言った通り、私の自慢は悪運の強さとこの度胸だ。
戦闘に秀でているわけでもない、家事もそれほど得意じゃない。キッドはもしかして、1年越しにまた私に価値を見出したいのかもしれない。

「ん」

カチャ、
がちん


「テメェ!!」
「え、」
「何してる!馬鹿が」
キッドに怒鳴られて、遅れて手の甲に痛みを感じる。叩き落とされた拳銃は船縁に弾かれて海へと落ちて行った。
「あ!銃」
「ンなもんいいから質問に答えやがれ!――トチ狂ったか、あ゛あ!?」
あまりの剣幕に肩を竦めるばかりだ。え、え

「な、なに怒ってるの?キッド」
「何本気でやってんだクソが!!!」
「だって、キッドがやれって言ったんじゃん」
「冗談に決まってんだろうが!!!」
「……冗談だったの?」
「当たり前だ!……っ来い」「ぐえ」

襟元を引っ張られたまま船長室に投げ込まれた私は、キッドが本気で怒っていると理解してすぐに謝った。いつもよりキッドの顔が青白いのを見て、悪い事をしたなと本気で思った。

「どうしてあんな真似しやがった」
「いや、どうしてって…―――ここにいたくて」
「あ…?」

「―――あの日と変わらない度胸と運がなかったら、キッドは、もう要らないって言うんじゃないかと」

今思えばやはり馬鹿な事をした。
でも、心の隅にいつもあったのは自分の必要価値で。この船で過ごす時間が長くなればなるほど、疑問と不安は少しずつ大きくなっていたのだ。



「……あんな簡単に、引き金引きやがって。テメェはこの船に乗った時と何も変わってねえ」
「キッド…」
「だが、お前の不安に気付かなかったのは俺が悪い」
「え、ちょ…キッド」
「悪かった。―――こんな事になるなら、とっとと言っときゃ良かったぜ」


キッドは深い息を吐き出して、同時に私を抱きしめた。(突然の事に思考回路はショート寸前!)
キッドの重みと、香りが、心臓を激しく揺さぶる。


「宣言する」


その言葉だけで、強張っていた肩から全部の力が抜けていった。


「この船に乗船させたあの日、俺はお前の運と度胸に惚れ込んでお前をクルーにした。今は、なまえ。―――テメェに惚れてる。運も度胸も容姿も性格も全部ひっくるめて、俺のものに……してえ。」
「キ、…っき」
「――つーか俺は既にしてるつもりだったんだよ!なのにテメェあっさり命投げやがって、クソ……いいか!オレは宣言したぞ」
「あ…うん。はい」
「お前もしろ」
キッドの顔は真剣だった。

「お前の悪運は大概だが、それに任せて動くな。理性を優先させろ。何よりもまず、俺の所有物であることを忘れるんじゃねェぞ」


理性を優先させろだなんて、キッドの口から聞くとは思わなかったけど、でも私はこの俺様感溢れる要求が嬉しくて嬉しくて、幸福で、……何度も頷いて了承した。もう本当にロシアンルーレットはやんない。命を軽んじる行動もしない。



「大体、この海で生きていけてる時点でテメェの悪運の強さは実証済みだろうが」
「……そうか。確かに」
「馬鹿が」
「キッド」
「……ニヤけんな。気持ち悪い」
「へへ。あの日砲撃受けて良かったと思ってる辺り、私史上最強の裏切り者かも知れない」
「俺のクルーを愉しんだ時点で、とっくにそうだ」
「キッド顔赤いね」
「……チッ」

神様を味方につけた海賊
1555551hit ギャグから始まるキッド短編
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