突然過ぎて、おれは時間が停止し、雪が降る町の真ん中に佇んだ。鼻を赤くしているそいつを見ては凝視し、白い息をはいた。「なまえ」蚊の鳴くような声でそいつの名前を呼ぶ。聞こえる筈がなかった。小さいしょぼくれた店からなまえを呼ぶ声がし、なまえはそれに昔と変わりない元気な声で返事をして入っていった。小さな酒屋。自然と足が進む。行き先は決まっているかのように、おれ自身ではない違うおれ自身が足を動かしたかのように、おれは自身で白い息を自然と吐いた

「いらっしゃ、い」

客はそこまで入っていなく、ポツン、ポツンと老いた爺さんや中年の親父、婆さん、若い奴は、いない、海賊も、いない。わざと、という言い方は間違っているのかもしれないが、おれはわざとなまえの前に座って「酒」とだけそっけなく言った。「はあい」昔と変わらない返事の仕方に、昔と変わらない髪の色。まず、なぜなまえはここにいるのか考えてみる。売られた?海賊になった?観光?旅?どれも一致しない、のだろう。「お兄さん、いくつ?」ハッと顔を上げるとなまえは肘をついて、おれをじぃっと見つめる。「何でそんな事言わなくちゃならねェ。」「興味。嫌ならいいけどさ」「…そうか」歳を晒す気なんざ、更々なかった。少し髪が長くなった、

「お兄さん海賊でしょう?この町じゃ海賊なんて滅多にいないから、なんか妙な感じ」
「おれも、ここまで賑やかでない酒屋を見るのは妙な感じだ。だがな、お前みたいな女を見るのも同等、妙な感じだ」

なまえは目を丸くさせて「なぜ?」と問いて、微笑んだ。「妙な感じに理由なんざねえだろ」おれがそういうとなまえは「そうだね」声変わりしていない声で、言った。

理由を知りたい。なぜここにいるのか、なぜおれを見ているのに目の前にいるのに、知らん顔をするのか。赤くなったなまえの指先に視線を送る。するとなまえは両手を握って「お兄さんは、わたしの幼なじみにそっくりかもしれない」ドキン、胸が大きく高鳴り「あ?」と低い声で反応した。本当は黙っていようとは、思ったが

「でも違うかも。」

寂しそうに笑うなまえを見つめ、なまえが置いた酒を二口飲む。
愛おしいと思った事はない。なにも別に、思ったことはない。「……。」しかしながら、どうしようもない気持ちがおれの中で渦を巻いていた。幼なじみ、海賊王になると決め海に出たおれ、それを泣きながら見送ったなまえ、そしてこうしてまた巡り会った、おれ達。

「……ん?」

服すれすれに見えるマークには見覚えがあった。海賊なら誰もが知っているマーク、

「お前…海賊か?」

手が止まる、なまえ。「…なぜ」「白ひげ、」「あ」自分でも気づいたらしい。マークを押さえて恐る恐るおれを見た「バレちゃったなあ」拭いていた皿を置いて、服を捲り上げると、そこには立派な白ひげ海賊団のマークが印されているではないか。心臓が胸をうつ速さが早くなる。早くなり、早くなる。なぜお前が、なまえが、

「内緒だよ?」

おれは立ち上がって酒代も払わずに店を出ようとした。くそやろう、心臓に悪いじゃねえか。それか、あいつをなまえだと考えないほうがいいのかもしれない。そうしよう、あいつは他人で、なまえでは、ない

「好きだった幼なじみがいて!その人が海に出て!わたしはその人が好きだったから!わたしは!いつか会えたらって!」

ぐっ、とドアノブを回す。「じゃあな」手が汗ばんでいた。なまえは、「それで!」「わたし!」「いま!」賞金首ではないだろう。もしそうだとしても、おれはなまえに手を出さない。出せないの間違いなのだが。海は広い。なまえに似ている奴もいれば、なまえに似ていて、同じ境遇の奴もいるだろう。きっとそうだ。きっと、そうなんだ。なまえだと認めなくていい。他人だと考えればいい。ただそれだけのことであり、敵であり、ただの、

「キッド!!」





あの時のように泣きじゃくっていたなまえは、今広い海を航海している。白ひげを海賊王にする為に。それはおれに会う為であっても、主要は、それだ。おれに会うためであろうと、なかろうと。あの時なぜ酒場で出会ったか、もう今は気にしない。いつかまた会える。あの時別れ際のなまえの声は震えていた。

「(なまえ)」
いつか、また会おう。そうおれは全身全霊で、想いを込めて、なまえに言った。

(菜の花畑での再会)
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