いつだっただろう。#myouzi#が花宮真という男に出会ったのは。
 もう随分むかしのことのようにも思えるし、昨日のことのようにも思える。ただ、どちらにも共通するのはその日のことを鮮明に覚えているということだ。


 花宮とは、街でショッピングから帰る途中に出会った。駅前でその頃付き合っていた恋人と別れ、電車が来るまでの間をどう使おうかと悩んでいたときだった気がする。
 その日はデートということもあって、普段めったに着ない乙女チックな花柄のワンピースを着ていた。恋人にも可愛いと褒めてもらった自慢のワンピース。それに、あろうことかチョコレート味のソフトクリームをつけて汚してしまったのが花宮だった。

 #myouzi#は憤慨した。お気に入りのワンピースに茶色の染みを作るなんて!一方、花宮の対応は何とも冷淡なもので謝罪の気持ちなんて全くこもっていないようなものだった。最初こそ温和な人の仮面を被っていた花宮も#myouzi#の怒りように苛立ちが募り、乱暴で粗雑な素を出してしまい、仕舞いには大乱闘となり駅員に注意を受けた。全て花宮が悪いのだ、と#myouzi#は思った。


 それからは散々で、住所を教えてもないのに花宮が家に押し掛けてきたり、学校の校門で待ち伏せしてたり、バスケの試合を見にこさせられたり、彼に逆らえた試しが#myouzi#には全くと言っていいほどなかった。



◇◆◇



 #myouzi#は恋人とのデートの待ち合わせに来ていた。学校帰りであるため制服のままだが、それでも一応オシャレはしてきたつもりだ。今日は幸いにも花宮に待ち伏せされることなく待ち合わせ場所までこれた。よって今、#myouzi#の胸中はそれに対する達成感で満たされている。
 #myouzi#は スクールバックの中から小さな手鏡を取り出し、最終チェックをする。いつもは鬱陶しいからと一つにまとめている髪も今日は下ろして丁寧にコテをあて、ストレートにしてみたのだ。前髪は花柄のピンでとめてある。少しばかり古風かもしれないが、黒いセーラー服にはよく合っていた。

 待ち合わせ時間を少し過ぎたころ、#myouzi#は後ろから聞こえてきた足音に嬉々として振り返った。けれど、そこにいたのは待ち望んでいた恋人ではなく、まったく関係のない花宮である。#myouzi#は思わず半目になった。
 同時に握りしめていた携帯にメールが届く。差出人は恋人で、別れよう、と一言。それだけ。こんな図ったようなタイミング、花宮を疑わないわけにはいかなかった。花宮はデートを邪魔しにきたのだろうか。人の恋路を邪魔して、いったい何が楽しいのかしら。いくら何でもそれは酷すぎる!そう思うのと裏腹に、心のどこかでこの状況を嬉がっていることにも#myouzi#はとうに気づいていた。



「#myouzi#、偶然だな。誰か待ってるのか?」

「……こんにちは、花宮。あんたこそ誰かと待ち合わせ?」

「#myouzi#を待っていた、かな。」

「………あのさ、あんた私の恋人…」

「ああ、あいつならついさっきお前の代わりに俺が別れを告げてきた。」



 花宮は得意げに口角をあげて、不敵に笑う。その表情に#myouzi#は思わず、胸のあたりがきゅん、と疼くのを感じた。

(さあ、これで邪魔者はいなくなった。俺と、付き合うだろ?)


END
2012/09/24
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