爪の中に土が入り込むのも厭わずに、わたしは必死にそこを掘り返した。後から後から競り上がってくる感情に耐えきれず、頬を一筋の涙が伝う。


「ひ、だ…っ!飛段!」


もういい、と土の中からくぐもった声が聞こえてきて私は手をとめた。自分の嗚咽でその声を掻き消さないようにと息を飲み込む。

――悪ィな。もう、いいんだよ


何で、何でよ。どうして負けちゃったの。木ノ葉なんて全然強くないでしょ。飛段は不死身なんじゃなかったの。また一緒にどっか遊び行こうって言ったじゃん。もうすぐあたし誕生日なのに祝ってくれないの?飛段がこの前あたしの作ったオムライス美味いって言ってくれたから、あたしもっと喜んでもらおうと思ってたくさん練習したんだよ

「ねえ、飛段。一緒に木ノ葉に仕返しに行こう?」

――ゲハハハ!俺が勝てなかったんだから、お前には無理だ!

「無理なんかじゃない!飛段だってきっと油断して」

――つよかった

「え…?」

――あいつ、ほんと強かった



絶対に誰かを褒めるなんてしない飛段が、敵である、木ノ葉の忍を褒めた。称えた。
私にとってそれはある種の衝撃で。
だってデイダラにボードゲームで負けた時もサソリとか、鬼鮫と阿呆みたいな事で喧嘩して負けた時も自分の負けなんて絶対に認めなかった癖に。


――聞けよ。おれはもうすぐ、死ぬ だろうけど、おまえは生きろよ


わたしは飛段のその言葉を聞いて泣いた。嫌だ無理だよ飛段無しじゃ生きていけない。そう言って縋りつきたかった。だけど忍びとして、愛するひとの最後の願いを無碍にすることなんてわたしには到底できなかったのだ。

ありがとうとか、大好きだよとか言いたいことはたくさんあったけど全部飲みこんでひとこと「あいしてるよ、飛段」と口にした。それから冷たい土にキスを落としてから立ち上がる。彼に背を向けた時、心臓が引き裂かれそうだった。涙は結局最後まで止まらなかった。俺もあいしてる、という飛段の声は聞こえなかった。




―――



あいつが泣いてるのが解かって、俺も泣きそうになった。情けねェけども好きすぎたんだな。今すぐにあいつを抱きしめてやりたかった。ああ、一目で良いから顔、見てェな。

足音がゆっくり離れてくのを感じて、俺は目を閉じた。まあどちらにせよ真っ暗なことに変わりはねェが、それでも目を閉じれば記憶の中で笑うあいつに会えたんだ。愛してる、俺だって愛してる。だけど返事を返すわけにはいかなかった、喉元まで競り上がっていた台詞を噛み砕くのには、苦労、した。


何も考えられなくなってきた頃、頭を占めるのはやはりあいつ。そりゃそうだ。
なんせこの俺がジャシン様に誓って愛した最初で最後の女なんだからよ。

あいつには幸せになって欲しい。できれば忍びもさっさと引退して、暁もぬけて、危ねェ暮らしからおさらばしてほしい。あいつを護るのが俺じゃねェのは少し…いや、すげェむかつくな。畜生、だけどあいつが生きててくれんなら、それでいいんだ。なんせ俺はお前が、お前を
土のなかで君をおもう
あいしてんだ、せかいでいちばんに な
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