安部という名の陰陽師は非常にヘタレで言わば弱小であった。霊のあたしから見てもそうなのだから、きっと依頼に来た人たちは呆れてものも言えないだろう。部屋の中をふわふわ浮遊していることに飽きて安部さんの部屋に行ってみた。

「あ、お前まさか幽霊か!う、死ぬ致死量で死ぬ」
「どっからも血ぃ出てないけど!」
「出てないけど死ぬ!ていうか怖いから帰れお前!成仏を推薦します」
「す、推薦された…」


床にぶっ倒れた陰陽師はやはりヘタレだった。私はすいーと部屋を移動して、横たわる陰陽師の傍に座った。安部さんはびっくりして何か言おうとしてたけど結局なんにも言わなかった。
そして数分の沈黙の末、口を開いたのはやはり私だった。

「怖い?」
「もちろんだ」
「(何か胸張ってる…)」
「オレが霊を克服するときは、陰陽師を辞めた時だと心に決めていた」
「(さっさと辞めればいいのに)」
「だが今日は一億万歩譲って怖がらんとこう」
「…何で」
「陰陽師をなめるなよ」

自分より遙かに怖がっている奴を見捨てておいおい気絶などしていられるか、と安部さんは横たわりながら言った。
そんなこと言いながらきっと冷や汗とかだらだらなんだろうけど。

知らぬ間に出ていた涙を安部さんはごしごしと拭ってくれた。何で触れんだし、とか思ったけど言わなかった。そんなことより、久々に感じた人の体温が。拭いすぎてヒリヒリする目じりが、堪らなくうれしかった。


「ありがとー、安部さん」
「霊のくせにめそめそするな!」
「うん」
「いつ成仏するんだ」
「そのうち」
「…今日は怖がらんからな!」
「はいはい」
「しかたないから甘えていいぞ」


抱きついてやったら、ピリと肌が痺れた。あ、そうだったあたし霊だった、このひと陰陽師だった、今あやうく浄化されそうになったな…やばいよね、このひと危険だ。け、ど


逃げたい逃げたい逃げられない

だって今手放したら勿体無い、
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