君をこの先に君を連れていくわけにはいかなかった。

醜く歪んだこの先の世界はあまりに君という真っ白な存在には不似合い過ぎた。だから僕は君を前にして受け入れていたはずのその笑顔を突き放して背を向けた。胸がちぎれそうだった。君が泣いていると思ったら傍に行かずにはいられなかった。だけど、体は依然として動かない。動かせない。君のもとに戻ることもできなければ先へと進む一歩もいまだ踏み出せていない僕は結局のところ、君に さよならなんて言えるわけがないのだ。


「ドラ、コ…行かないで」
「ごめん」
「ここに いて」
「―――…ごめん」

僕の口はその言葉しか知らないとでも言うように繰り返し謝り続ける。ローブの中の杖を強く握りながら唇をかみしめれば、わずかに血の味がした。
きっとこれからは嫌というほど交わりがあるだろうこの赤をこれほど呪ったことはない。




出会い頭はほとんど最悪だった。それはきっと向こうも同じように思っているはずだ。
それでも喧嘩しながら僕らはお互いを知っていった。気が付いたら、僕は君を頼り君は僕を頼っている今があった。
あの頃は現状が崩れ去ることなんて有り得ない気がしてた。ずっと、このまま居られるものだと…。


「僕だって、行きたくないんだ。でも行くしかない、やるしか 無い」
「じゃあ、あたしが…!あたしが、ドラコの代わりに行ってあげるから、だから」


僕は彼女を腕にすっぽりと納めて抱きしめた。こうすることで、この儚い存在が未だに壊れず此処にあるのだと実感する。まだ、いきてる。ここにいる。

「君が生きていてくれるだけでいい」

ほかにはなにもいらない。
権力も財産も父上からの信頼も、全部いらない。君が生きてさえいれば僕は強く在れるんだ。
本当はこの手で護りたかったけどそれはどうやら叶わないらしい。


「…僕が消えたら、君はポッターの所へ行くんだ」
「、はりー?どうして」
「あいつなら…君を、まもってくれるだろうから」
「ドラコ…!」
「もう時間だ」

そっと彼女の頬に手を添える。やわらかな髪を顔から払って小さな唇に口付けた。ああ、涙の味がする


「―――…今までありがとう、僕はこれでも君を心から愛してたんだ」
「待って、ドラ」


言葉が最後までつながれる前に失神呪文を放つ。崩れ落ちる彼女を抱きとめて、ベンチに寝かせる。ここならだれか見つけてくれるだろうけど、今夜は冷えるだろうから僕のローブをかけておこう。
真っ白い肌は雪みたいだったけど、温かい笑顔は春のようだったな、なんて僅かな思い出に浸る。

ふと自分が泣いていることに気付いた。


「…、っ」

愛おしいとはこんな気持ちだったのか、だったら こんな気持ちになるのだったら知りたくはなかった。離れたくない、胸が張り裂けそうだ。
好きで、好きで好きで。やっと手に入ったのに自ら手放す僕は勝手だ。それでも一生きみを想い続けると誓おう。そうさ、ぼくはえいえんにきみを きみのことを愛しつづけるから、だからきみは幸せに

さよならも云えない
臆病な僕はきみに僕の存在を忘れられないように必死なんだ
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