「なまえ、私あなたの趣味がさっぱり分からないわ!あのヘタレイタチのどこがいいのっ」
「え?だってクールだし格好良いしシルバーブロンドだし…あ、この前落ちた羽ペンを投げて渡してくれたんだよっ」
「あのマルフォイが君の落し物を拾ったの!?」
「うん、そうなの!ちょっと指に刺さったけどそんなの気にしないからねっ」
「…なまえ、あなたって凄くポジティブね。私なまえのそういうところ凄く好きよ」
「ありがとうハーマイオニー!あ、ドラコだ!じゃあ後でねー」
廊下の向こう側に居る彼に向ってスキップジャンプで、飛び付き!(うげって聞こえたけどきっと気の所為!)それよりドラコの背中って以外に暖かいんだね、飛び付いた甲斐があったってもんだわ!くるり、顔が振り向く。
「またお前か、なまえ!」
「ご機嫌いかが?ドラコっ」
「いいわけないだろ!さっさと僕の上から退くんだ」
「ふんばってー」
「お・り・ろ」
「いやー…だってドラコの背中温かいんだもーん」
すり、と頬ずれば僅かに香るペパーミント。それが何だか嬉しくて思わず顔に笑みが広がった。おろおろしているクラップとゴイルに「こんにちわ」と挨拶すれば、二人は顔を見合せて面食らったようにコンニチワと返してきた。
「お前、自分がグリフィンドールだって自覚はあるのか」
「もっちろん!」
「じゃあスリザリン生である僕とはもう少し離れて歩くんだな!」
ずりずり引きずられながらなまえは首をかしげる。
「どうして?」
「…どうしてって、そんなの」
「あたしはね、純粋にドラコくんが好きなだけなんだけどなあ」
「ふん、僕は君が嫌いだけどね」
ドラコは口にしてからハッとする。それでも訂正する気にはなれなくて、眉を狭めて口を結んだなまえは小さく溜息を吐く。
報われない恋って何かロマンチックだね、
にっこり笑ってそう言ったかと思えば、腰に巻きついていた重さはふっと軽くなる。ドラコが慌てて振り返るとそこには人でごった返す廊下が広がっているだけだった。
「(…くそっ)お前達先に行ってろ!」
だっと反対方向に駆けたドラコを呆気にとられるように見てからクラップとゴイルは肩をすくめて歩きだした。
(ドラコ、素直じゃないよな)
(うん…あいつグリフィンドールだけど純血だし可愛いよな)(…うん)
***
廊下をとぼとぼ歩いていれば、目の前に愛しの親友達の姿が。
「うびぇーん、ハリー…ロン、ハーマイオニー」
「あらなまえ…さてはマルフォイにフラれてきたのね?」
「うん…ぐす」
「だからあんな奴スキになんかなるなって言ったんだ!」
「でも…自分に嘘吐くのって、やだし」
あたしドラコ、好きだし。
呟いた言葉が虚空に消える前に、涙を拭おうと上げかけた腕を誰かに掴まれる。ゆるりと振り返ってみると、灰青色の瞳とそれから上下に揺れる肩が目に入った。
「…何、泣いてんだよ」
状況が飲み込めずに口を開閉していれば、隣でハッとしたようにハリーが口を開いた。
「その手を離せよ、マルフォイ」
「…僕はポッターに用があるんじゃない」
「なまえが泣いてんのは君の所為だぞ!」
「ロ、ロン…!あ、違くて、ドラコ…別にあたしはそんな」
こんな事になっていよいよ本気で泣きだしそうなのはなまえだった。ドラコに自分の涙を見せる気は微塵も無かったし、今の状況で明らかに不利なのは彼だったからだ。
(嗚呼、どうしよ…あたしの所為だ)
ドラコの手がゆっくりと腕から離れていくのを感じる。怒っちゃった、かも、知れない。どうしよう。またじんわり浮かんだ涙をしゃくりと呑み込む。だが、遠のいた温かさは別の形で舞い戻ってきた。
「、ド…ラコ……?」
「あんなこと言って、傷つける気は…無かったんだ」
ハーマイオニーが気を利かせてハリーとロンを連れて去ってくれたのが分かった。ひとこと言っておくと廊下のど真ん中で抱きしめられた経験は私には全くない(抱きしめたことは何度もあるけどね)
「…ドラコ、もう大丈夫」
「なあ…僕は一体何をしてるんだ?こんな大勢の目のある所で対立する寮の女の子を抱きしめて挙句一番嫌いな奴等に気を使われた」
「…後悔してるでしょ」
「ああ。」
「…」
「ああ、泣くな!最後まで聞けよ。僕はな、」
そうまでしても、君を泣かせたくなかったんだ!
言いきったようにして眉を下げたドラコを私は信じられない思いで見つめる。だって、正直本気で嫌われているって思ってたから。
そして徐々に込み上げてきた喜びから、私は彼に思いっきり抱きついた。ふわり、ペパーミントの香り。
かけねなしの乙女
(恋ってねばったもん勝ちね…!)(君には勝てる気がしないよ)