あいつの泣き顔は見たことが無かった。にこにこと。時にはゲラゲラと。笑いながらいつだって誰かに囲まれていてるお前を僕は心底嫌いだった。

どうして誰にでも同じように平等に接しられるんだ。
この前はネビル・ロングボトムと薬草学について楽しげに話していて、その前はウィズリーの双子と悪戯な笑みを浮かべて何か相談し、そのさらに前はハッフルパフのセドリックに話しかけられていた。


「おい」

だから僕は言おうと思ったんだ。ムカつくから僕の前に立つな。もう少しスリザリンであることに誇りを持て、お前は

「マルフォイ!」

口にしようとしていた嫌味やら嘲りやらは、彼女の僕を見たときの満面の笑顔によってどこか遠くへと吹き飛ばされてしまった。

「良かった!今ちょうど、あなたを探してたところなのっ」
「…僕を?」
「来て!」

彼女は何の戸惑いも無く僕の手を握って走り出した。
握られている手から伝わる体温を意識しまいと前を向けば少しだけ先を走るそいつの横顔が目に入った。
楽しそうに、嬉しそうに口元に笑みを浮かべながら前だけを見る姿に走りながら僕は少しだけ見惚れた。


バタン、と扉を開け放つとそこは銀世界だった。
(雪、降ってたのか…)彼女は靴に入り込んだ雪が靴下をじんわり湿らせていくことも気にせずに、雪の中をずんずん進む。

様々な窓から零れる明かり。
僕はやっと口を開いた。

「それで、こんな寒い中一体僕にな」
何の用だよ、と尋ねる前にドォオオンと音を立てて空に打ち上がった大きな花火。ドラコは驚いて肩をすくめ、グレーの瞳にそれを映した。


「メリークリスマス!マルフォイ」
「…は?」
「この花火はあたしからのプレゼントということで」
「って、おい。一体どういう」
「マルフォイ今日誰かにプレゼント貰った?」
「…いや、まだだ」
「よかったあ」
「何だよ」
「一番にあげようって決めてたから!どう?気に入った?」


雪の舞う中に色とりどりの火花が寒空を散った。
正直凄く……、いや待て

「どうして僕なんだ」
「へ?」
「ポッターやウィーズリーを誘えば良かっただろ!大体僕は君の事が」

きらいなのに。と、紡がれるはずだった言葉はしかし彼女の冷たい手によって塞がれた。そして僕に向かって困ったような笑いを向ける。

「なんでだろうね…分かんない、けど」


―――マルフォイがよかったの。

こいつの泣き顔は見たことが無かった。にこにこと。時にはゲラゲラと。笑いながらいつだって誰かに囲まれていてるお前を僕は心底嫌いだった。
どうして僕の隣に居ないんだ。僕の隣でなら、そうやって笑ってても全然嫌には思わない。
どうせ そうやって綺麗に笑うんだったら、ここで

ぼくのとなりで


「ごめんね、いきなり。寒いから中入ろっか」
「…ろ」
「…?」
「僕にも、少しはかっこつけさせろ」

ドラコは杖を空に向けて一言呪文を呟いた。すると空にはひと際大きく七色に輝く花火が打ち上がった。そして落ちてくる花火の欠片は幾粒ものキャンデー。

「う、わあ…!」

僕は目を輝かせるそいつを引き寄せて鼻のぶつかりそうな距離で囁いた。
「僕のプレゼントはどうだった」
彼女はびっくりと目を丸めてそれから頬をピンクに染めてはにかむ。

「私のなんかより、ずっと素敵!」


最後にありがとうと言ってドラコの頬にキスをした。
するとドラコも少しだけ頬を染めて、そっぽを向く。ああ、なんて照れたように言うものだから、私はこの時から確実にドラコのことが好きになってしまったようだ。
雪色花火
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