全身を襲う激痛、熱、痛み、餓え、苦しみ。孤独。なぜ父はわざわざ地獄に安寧を求めた。ここに一体何がある。何もねぇ。おれ達が何をした。許さねェ。俺の未来を奪った全てのものに復讐するまで、俺は、おれ、は

「ドフラミンゴ」

はっとして目を開ける。
こちらを覗き込んでくる、ブルーの瞳。

「………名前、か」
「どうしたの?すごくうなされてたよ」

身体を起こす。
知らないうちにうたたねをしていたらしく、窓の外に見える景色はまだ明るかった。遠くに海鳥の鳴き声が聞こえる。
目元に手を当てて思考を冷ましていると、不意に、背中に手が当てられた。

「……」

先日支給されたと大喜びで見せびらかせに来た海軍のマントを椅子にかけて、小さな手のひらで俺の背中を撫で付ける名前。
なんだこいつは。これで慰めてるつもりか。
激しく笑えるが、不思議と、ようやく胸の深くまで酸素が行き渡った気がした。


「………フッフフ、色気のねェ慰めだ」
「なによ、キスでもしてほしかったの?」
「分かってんなら言われる前にしてみせろ」
「いやだよ、あほか」

離れていこうとする手を掴んで引き寄せる。
こんなひ弱で甘くて何が海軍中将だバカ野郎。

「なあ名前、うちのファミリーに入れ。優遇してやるぜ」
「離してくれませんかマジで」
「お前が首を振ったらな。………横にじゃねェよ」

細い身体をきつく抱きしめる。蛙の潰れたような色気のねぇ悲鳴が上がったが、離してやる気は毛頭起きなかった。


「……センゴク元帥が呼んでるって、伝えに来ただけなんだけどな」
諦めたように力を抜いて、名前が呟く。
俺は肩を揺らして笑った。

「フッフフフ。センゴクも随分間抜けじゃねェか。名前を寄越して、俺が大人しく返すとでも思ってやがるなら」
「あんたも一肌恋しくなることがあるんだね」
「………は?」

腕の中から見上げてくる名前の目に、俺を馬鹿にしたような色はない。
私の弟たちがね、と言いながら身をよじり、間抜けにもベッドの上に上がってくる。名前らしからぬ行動に、何をする気だと口をつぐんでいれば、おもむろにサングラスを外された。
セピア色だった世界が、名前を中心にクリアな色彩を取り戻す。


「怖い夢を見たときは、必ず私のベッドに潜り込んできて、夜がこわいって泣くんだ。
今のドフラミンゴも、おんなじ顔をしてる」


再び闇に包まれた。
名前は俺の頭を抱えるようにして抱き締めていた。

「だから、大丈夫、

もうこわくないよ」

俺の髪を撫で付ける名前の手。伝わってくるあたたかな鼓動に、俺の中で凍えていた何かが少しずつ溶け出していく。
それは俺の野望を達成するために必要なものだ。手放してはいけないと、分かっていながら、俺は力なく落としていた腕を名前の背中に回し、よりいっそう強くそいつを抱き締めた。
壊さないよう、俺らしくもない細心の注意を払って。

世界は黙ってしまった
そばにいろと、
情けなく震えた声をこいつは聞き逃してくれただろうか。
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