ルフィが天竜人を殴り飛ばしていつも通り一騒動起こし、居合わせた二人の船長達と競り合うように会場を出て行った後、ナミは深い溜息を落とした。

「これでこの諸島にも長居はできなくなったわけね…」
まあルフィだし仕方ないか。
いつの間にか癖になった一言でその場を収め、深手を負ったハチのもとに近付く。

「に、にゅ〜、ナミ……すまねえ、麦わらが」
「ハチ、ルフィのことなんて心配するだけムダよ。それに気に病むことなんて一つもないんだから!」

だって、私たち全員本当はスッキリしてるもん。にっと笑って言えば、ハチの大きな目に涙が溜まっていく。
ナミは顔を上げて会場の出口を見やった。
ごおお、という地響きが表の戦闘の激しさを物語っている。

「さ、皆、私たちも行きましょ!ルフィがまた厄介ごと引き込む前に退散するわよ」
「はぁぁい、んナミすわぁ〜〜ん!…って、ナミさん危ねェ!!」
「え?」

サンジの声に反応して振り返ったナミのもとに、剥き出しの刀が数本、ひとりでに向かっていった。
「きゃあ!」ナミは固く目を閉じて腕を突っぱねる。

その指先に何か細いものが触れたかと思うと、金属のぶつかり合う音が響いた。しかし、想像していたような痛みに襲われることはなく、ナミはおずおずと目を開ける。
「…あ」
視界は広い背中で埋め尽くされていた。
金色の髪が今度は頬に触れる。
ナミは口をもとをきゅっと引き結んで俯いた。彼がこの場に居るということは、とうの昔に気付いていたのだ。

「早い再会だったな」
「…そうね。驚いたわ、アンタキッドのところのクルーだったのね」

振り返ったキラーは、出口に向かって飛び続ける武器たちを眺めて小さく息を落とした。

「船長には腰を据えておいてもらいたいもんだ」
「お互い様よ。ほんっと、じっとしてらんないんだから!」

クスッと笑ったナミに、マスクの奥でキラーも小さく笑みを浮かべる。

そんな二人を見つめる各船員たちの反応もまた様々だった。


「なっななな、なんなん、何だあのクソジェイソン野郎はァァア!!!うっ、うちの美人航海士と馴れ馴れしくしやがって馬の骨の分際で!!!」
「サンジ顔こえー!で、でもほんと、誰だろうな」
「ヨホホホホ、何だか仲睦まじい雰囲気が出てますねぇ」
「ふふっ、本当ね。さあ私たちはルフィを追いましょ」


「キラーの奴いつの間にあんな美人と知り合いやがったんだ!?俺は聞いてねーぞ!」
「そういやキラーさんここへ来る前一人で街に向かってましたね。ま、まさかナンパを」
「バッカ、おめー殺戮武人がナンパなんてするか。逆ナンに決まってんだろ」
「抜け駆けしやがってクッソォ、ゆるさねーキラーの野郎」
「まあまあ、とにかくお頭んとこに行こうぜ」




「へー、さっきのアレ、アンタの船長の能力なのね」
「そうだ。……お前のところの船長はまた」
「どうかしてるって文句なら受け付けないわよー?」
「……いや。まあ、はた迷惑ではあるが、船長なんてどこもそんなものだ」
「そうよね。どうかしてなかったら、海賊なんてやってないわ!」
「違いない」

あ、また笑った。
ナミは隣を歩くキラーを横目でちらりと伺い、口元に小さな弧を描いた。マスクで顔は見えないが、なんとなく、微笑んだのは分かる。

「……お前の名前は」

それは、少し前を歩く他のクルー達に聞こえないようにと、そんな配慮の伺える声だった。
ナミは少し考えて口を閉ざす。
会場の出口が見えてきた。
あの光に飲み込まれてしまえば、この奇妙な馴れ合いは終わるだろう。それは向こうも分かっているはずだった。
キラーの問いかけは、別れの言葉を意味していた。




「教えないわ」



ナミの声はもまた、前方の仲間達に聞こえないようにひそめられていた。そのまま足を止め、振り返ってこちらを見る困惑君のキラーを見上げる。彼らの後ろに、もう人影はなかった。

「あたしが誰だか知りたきゃ、探してみればいいわ」

この日だけで終わらせたりなんてしないわ。
せっかく見つけたんだもの。…会えたんだもの。

「だから、」
「!」
キラーのシャツの首元を、両手でつかんで引き寄せたナミは、そのままキラーのマスクの、おそらく唇があるあたりに自分の唇を押し当てた。
一瞬の出来事に唖然と固まるキラー。


「ーー私もアンタを探すわね。どっちが先に見つけられるか勝負しましょ」
「な、……何を」
「賭け金は」

ナミはニヤリと海賊らしい、陽だまりの笑顔とはまた違った表情を浮かべて見せた。

「お互いの恋心ってのはどうかしら」

はやる。
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