「あ、雨…」



昇降口まできてから、外が大雨なことに気がついた。
おかしいな…今日は晴れマークついてたのに。


「傘…忘れちゃった」

走って帰るには距離がありすぎる。でも、走って帰んない事には帰れないのだ。仕方無い、と意気込んでその態勢に入れば「ばかだろ」と掛けられた声。

「風邪ひきてぇのか」
「あ、キッドくん」


不良で有名のキッドくんだ。
いたって地味な私とはなんの接点も無い彼が、私に何の用だろうか。

「傘忘れたのか」

私の横に立って、濡れる道路を眺めながら聞いてきた。
話したことが無いなんて嘘みたいに、私も答えを返す。

「うん…天気予報で晴れるって言ってたから」
「ばかだな、朝から太陽なんざ出てなかったろーが」
「そういえば、そうだったかも」
「…はあ」


ため息に続いて、差し出された傘。

「…貸してやるよ」
「え、でも…あ!待っ」

投げられて咄嗟に受け止めてしまう。雨の中にゆっくり消えていくキッドくんの背中。あ、どうしようこのままじゃ私は風邪ひかないけどキッドくんはひいちゃうよね、それは、困る。少し戸惑ってから、その背中を追い掛けた。






「待って、キッドくん」
「ばっ!お前なんで追い掛けてくんだよ!ビショ濡れじゃねぇかっ」
「あ、ほんとだ…。」
「ああー…!もうこれだから鈍感はっ」

俺がかっこつかねぇじゃねーか!と口走るキッドくん。


「ごめんね、あたし…困らせたかったわけじゃ、なかったんだけど」
「…別に困ってねぇよ」
「キッドくんが風邪ひくのは」

言葉を選ぶように目を泳がせて、名前は口を開いた。その言葉に、キッドは僅かに目を見開かせる。


「キッドくんが風邪ひくのはちょっと、あたしが…やだから」


ざあざあと変わらず降り続ける雨の中で、向かい合って立つ二人。名前の手にもたれた赤い傘は、開かれないままだ。


「…チッ」
「(怒らせちゃったかな)」
「貸せ」

名前の手から傘をうばって、バッと開く。そのまま名前の腕を掴んで引き寄せた。


「送ってってやる」
「、…ありがとう」

そんな悪いからいいですよ、と喉元まで出てかけた言葉はキッドくんの目を見たら自然と消えていった。濡れた髪の毛と同じ赤は、まっすぐに私を映している。

きれいだなって、そう思った。



「結局、俺もお前もビショビショだな」

傘を持ちながらそう言って笑うキッドくん。そうだね、ってあたしも笑う。
なんか…キッドくんのイメージが変わった。
前はただの"不良"だけだったけど、今は"優しい"不良だ。

其れを言えば、「えらい昇格したもんだぜ!」って愉しそうにまた笑った。


相合傘の相手は優しい不良のキッドくんで
相合傘なのに二人ともビショ濡れで

相合傘のおかげで
雨の日が、少しだけ好きになった

ロー短編「雨傘など乞うものか」と対