「あれ、ルフィ君」
昼休み。私がいつも通り図書室に足を運ぶと、そこにはすでに先客が居た。
「おー、名前!」
「ルフィ君が本読んでるなんて珍しいね」
「そっかー?」
「うん。すごい、珍しいよ」
それもそうだなー、と言って子供っぽく笑う彼に、ドキリと胸が高鳴る。
ルフィ君の、
駆け引きの無い優しさとか
誰でも受け入れる広い心とか
純粋すぎるくらい真っ直ぐに生きてるあなたの全てが、あたしの憧れだった。
だけど彼の傍にはいつも誰かいて、私なんかが話す機会は全くと言っていいほど無い。今日だって図書室に居るのが不思議なくらいだから。校庭で元気に遊んでるルフィ君のイメージが取り払えずに首をかしげた。
「名前はいつも図書室に居るのかー?」
「うん。本が好きなの」
「ふーん…」
なんだろう、と思ってルフィ君の方へ顔を向けると、真っ直ぐな視線とぶつかった。
そして投げかけられるのは純粋な疑問。
「俺にも読める本、ねーかな」
***
「嘘、だよな」
「誰かそう言ってくれ…」
「あのルフィが…っ本読んでるなんて」
「何かの予兆に違いねえ」
「人類滅亡、とかかしら」
「え、えええ縁起でもねえぞっ」
上から、ゾロ、サンジ、ナミ、フランキー、ロビン、そしてウソップ。
各々に酷い事を述べながらも目線は自分の席に座って本を読んでいるルフィに向けられていた。
「あ、ルフィ君。どう?読めそう?」
「名前!読めるよめるっ、しかしこの本おもしれーな!」
「ふふっ、気に入ってもらえてよかった。」
「ルフィの野郎、何時の間にあんなかわいこちゃんと」
「待ってサンジ君。ルフィ…顔赤く見えない?」
「おいおいおいおい…まじかよ」
「こりゃ間違いなく惚れてんな…あの子に」
***
俺が名前と初めて会ったのも、図書室だった。
雨が降ってて外に出られなくて校内をふらふらしてたら、いつの間にか図書室の前に居た。教科書程度の読み物しかしないルフィにとって、そこは特別心躍るような場所と云うわけでもない。
単なる気まぐれだった。
がらりとスライド式の戸を開けて一歩踏み居る。
「静かだなー…」
(やっぱ俺には向かねえ)
踵を返そうとしたとき、名前の姿が目に入った。
名前は本を机に置いて、頬杖をつきながら小難しそうな本に目を落としている。
何だかよく解らないけど目が離せなくなったんだ。
それから、名前が毎日本を読みに昼休みここへ来ることを知って。
俺は入り口に一番近い席に座って待っていた。
何を話そうかな、
(あれ、おれ何してんだ?)
返事をしてくれるかな
(おっかしーなあ)
名前は笑ってくれるかな
(すんっげーどきどきしてるぞ…?)
「あれ、ルフィ君」
よかった俺の名前は知ってるみたいだ!俺も知ってる、て意味で名前を呼んだのに、名前はそれに気付かなかったようだ。
それから他愛のない話をして、
名前が本が好きだと笑って言うから何だか俺も嬉しくなって。
名前が選んでくれた本だから一文字もぬかさずに読んでみると、案外おもしろくって。
どうだった?って聞きにきてくれた時は俺の心臓もどきどき弾んでた。(クラス違うのに、来てくれたんだ!)
もしかして俺は病気なのか?
だったら早いとこチョッパーに診てもらわねぇと。
「…でもなあ」
この胸のどきどきは嫌いじゃない。だって、似てるんだ…!
宝を見つけたような、そんな感覚に