体の内側から迫る震えが、私の思考を侵食した。目の前に広がる状況を事実と認めてしまえば自分が自分では無くなってしまう気すらした。それでも、敢えて客観的に物事を見つめたとして今の状況はやはり悲惨と呼ぶにふさわしい。今朝まで普通な状態にあった我が家は瓦礫の山になり下がり、両親とも呼べる存在は肉塊と化した。


「お前も死ぬと良い」
「私も殺すの…?」
「ああ、俺は優しいからな。お前ひとりを両親から引き離したりしねぇ」
「…それのどこが、優しいの」


このふたりは両親でも何でも無い。
奴隷として私を購入し、使い、捨てようとした。捨てるというのはつまり殺すという事で、この男のひとが来てくれなかったら私はもうとっくに死んでいたのだ。なぜ、此処に来たのかは知らないが。
それでも今死んだら確実にあのふたりに追い付いてしまう。どうせ殺すなら、もう少し後で。なんて頼んでみた。



「置いてかれちまうぞ」
「望むところよ」
「もう少しってどのくらいだ?俺は今ひとが殺したくて仕方無ぇんだよ」
「そうね、あの二人が閻魔さまの所に行って地獄判決が言い渡されたら」
「それっていつだよ」

小さく、その悪魔は笑う。
なかなかどうして、きれいな笑いがおだ。人を殺してもそんな顔ができるのなら、私だって当に何人も殺してる。
それにしても、私の声は怯えを失くしてその場に響いた。


「ひとが殺したいだなんて、あなた変ね」
「そうか?」
「ご職業は殺し屋か何かかしら」
「海賊だ」
「へえ、海賊ね」

海賊と云う事は、この諸島にはコーティングに来たのだろう。結構危ない橋を渡る人だ。
そう思ったら急に辺りが気になり始めた。

「誰かに見られたら、海軍を呼ばれるわ」
「そうかもな」
「…もう、そろそろいいよ」

あれから時間は経った。あの二人も当に門はくぐったはずだ。

「お前との話は楽しかったぜ。」
「だったら精々優しく殺してね」
「目でも閉じとけ…すぐに終わらせてやる」


今まで自分の死に際なんて碌なもんじゃないと思っていたけど、私が予想してた展開よりはずっといい。少なくとも、ひとりではないらしい。
少しだけ未練があるとしたら…このひとの、名前を



「っんん、?」
「目ぇ開けんなよ。雰囲気でねーだろうが」
「ふ、な…にして」
「なんとなく。殺す気が失せた」

私の唇についた赤をいやらしく舐めとって彼はにんまり笑う。さっきの笑顔とはまた違う、企んだ笑み。
きれいだという点では、一緒なのだけど。


「俺が拾ってやるよ」

彼は私のことを捨て猫か何かと勘違いしてるのかも知れない。似たようなモノなのは否定しないけどね。拾うという表現には若干誤りがあるような気がしたが、それでも何も言わなかったのは芽生える願望ゆえ。


「俺の名はユースタス・キッド」
「…キッド」
「船長だ」
「キッド、…船長」

満足そうに口端を上げてキッド船長は私の頭を優しく撫でた。これが海賊の手、なんだろうか。ああなんて温かい、涙が出そうだ。てのひら一つで、この人の為ならば命でも何でも投げうってしまおう…という覚悟ができてしまう私は結構単純なのだ。そう、

餓え
温もりにも優しさにも愛にも、餓えてたのだから
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