春の温かな日差しが寝室の窓辺から差し込む中、私はベットの上でまどろみながら、ふと両方の瞼を開いて壁際の椅子に腰を下ろして本を読んでいるローを見た。
それに気付いたローは本のページを捲る手を休めて私に顔を向ける。

「どうかしたか」
「ううん。ただ、ローいるかな…って思って」
「ばーか」

俺はずっとここに居るだろ、と笑うロー。
そうだね。そうだけど、私はたまに不安になるの。ローがどこかに行っちゃうんじゃないかって

「まま」

いつから起きていたんだろうか。隣で自分の袖をひく息子は、心配そうに首をかしげた。

「ごめんね。起しちゃったね」
「まま」
「ん?」
「ぱぱ、どっかにいっちゃうの?」

パパはどこにも行かないよ、なんて言葉を出すことに躊躇ったのは、彼が海賊だからだろうか。
ローはパタンと本を閉じてベットに腰かけた。
ギシリと軋む音を小耳にしてからローの低く優しい声に耳を傾けた。


「俺はな、海賊だ」
「うん」
「海賊ってのは自由ないきものだ」
「うん」
「だから俺は好きな場所へ好きなように行くのさ…。勿論、お前とママもつれてな」

だから安心しろ。
誰が置いて行ってなどやるか。

「…ぱぱ」
「何だ」
「ベポも…?」
「ああ、皆だ」

ありがとう!にっこりとした太陽のような笑い顔を向けられてローは幸せだと感じる。
息子の隣でやわらかく微笑んでいる女も愛しく思う。


「俺も昼寝するかな」
「ふふ、ローがお昼寝?」
「たまにはいいだろ」

ローは私の髪の毛に指を通して額に唇を落とした。おやすみ、彼の声は子守唄のように鼓膜を震わせる。
ローのお気に入りのモコモコとした帽子は、いつの間にかまた眠りに落ちた息子の腕にしっかりと抱えられていた。可愛らしい寝顔に、頬がゆるむ。

「この島もじき出るからな」
「うん」
「ゆっくり休んどけ」
「ロー」
「…ん?」
「すき」


幸せのカタチはもちろん人それぞれだと思っている。だとしたら俺の幸せはきっと今この瞬間だ。
命に代えても護りたいもんが増えた。
――それだけで、どうやら俺はまだ強く在れそうだ。


春の日差しはやはり眠気を誘う。ローはすうすう寝息をたてるふたりをじっと見つめながら。僅かに口元をゆるめた。
そして自分ものろのろと瞼を閉じて、ゆっくり夢へと意識をと投じていった。
この先何があってもこいつらは俺が護りぬこうと、掠れゆく意識の中で、俺は確かにそう誓ったのだった。

春の誓い
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