目の前がくらくらする。ああ、私は死ぬのか。厭だな、死ぬのは怖いな、あ、生きていたいなあ。どうしようあたしが死んだらキッドは多分すごく怒るだろうなそれに暴れるだろうし、もしかしなくても泣いてくれるはずだ。でも私死んだらキッドん泣き顔見れないじゃん、照れた顔もマジでキレる5秒前な顔も全部見れなくなる、それはちょっといや、だなぁ


「しにたくないよ」


声に出したつもりだったのに。それはひゅうと息の通るだけの音に変わって、やっぱり死ぬんだもう直ぐと私に嫌でも認識させた。それにしても、キッドは今どこで何してるんだろう私の死に際だっていうのに、本当に来ないなんて事があったら天国…うそ、地獄で呪ってやるわ。


「おい、お前何やってんだ」
「あ、キッド」
「血だらけだぞ」
「うん。も、死ぬと思う」

「バカ言ってんじゃねェ」



ああ…よかった、怒ってくれた。キッドに言葉を伝えたいと願ったら辛うじてかすれた声が喉の奥で漏れた。だけどキッドが泣いてくれる気配は全くこれっぽっちもないし暴れ出す気配だって欠片も見えない。ぼんやりとこちらを見つめているキッドを私は屍で埋め尽くされた船上で見上げる。やがてキッドは溜息一つぽろりと零した。その溜息は呆れより後悔の色が濃い。


「お前に船番なんぞ任すんじゃ無かったぜ」

「なに、よ。敵は皆殺したんだから良いじゃん」
「弱ェくせに」
「弱くないし」
「弱いだろ」
「弱くない」
「じゃあ何で、テメェは死ぬんだよ」


ぽたり、地面に染みができた。おかしいなキッドの目も頬もかわいたままなのに。雨が降ってきたらしいホントにタイミングが悪い!もし、いまキッドが泣いてたとしてもこれじゃあさっぱり見分けがつかないじゃないか。そうこうしているうちに私の視界もどんどん薄れていってるし、色んなところからドクドク流れ出ていた血も今では気に止まらない――感覚全部麻痺しちゃったから。


「ねえ、キッド。キスしてよ」
「言われなくてもそのつもりだった」

嘯かれた言葉と重なった唇が最後の記憶。ありがと、大好き愛してる。
紡ぎ紡がれた言葉達が酷く愛おしい。

わたしの頬に当たった雨粒が少しだけしょっぱくて少しだけ笑えたの
滅びの美学
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