「ギャー!!」
ひとがふってきた。
私は正真正銘、魚人島出身かなり若め(ワカメじゃないよ)で綺麗めな可愛い系(よくばり?しかたないじゃんほんとだもん!)人魚だった。そんな私が水面近くに上がった時丁度人が降ってきた。 揶揄ではない。 真っ赤な髪のその人は私の頭と自分の頭をゴッツンコさせたかと思うと、無言でブクブク沈んでいった。私は慌ててその人の腕を取り、海面に引き上げる。
「ちょ、どーしちゃったのあなた!だいじょうぶ!?」 「ゲホッ、ゲホ、……ら、ねぇ」 「え?」 「ち、から…で、ねぇ」
力でねえ。そう言ったのか。アンパンマンみたい。私はすぐ傍にある大きな船を見上げて、この人はここから落ちたのだと推測した。というか明白だったけど。…バカなのかなこの人? 少し離れたところに砂浜が見えた。
「お頭ー!キッドの頭ー!」
「あ、ちょ、そこのお兄さん!」
「は?……えええ!?」
「この赤髪のアンパンマンさんと知り合い?」
「アンパ…か、頭ァアァ!!」
「この人砂浜に運んどくから、すぐ来てね!」
「わ、わかった」
船縁から顔を出したスキンヘッドにモヒカンな男の人が了承したのを見て、私は赤髪の人の腕を自分の肩にかけた。半目でこちらを睨みつけてくる男の人は「誰だてめぇ」と弱弱しく尋ねてきたが、海水が鼻に入ってすごく痛そうにしていたから全然怖くない。
「アンパンマンさん!」
「誰の事だ!ゲホッ」
海水を飲んで咽たらしい。やっぱりバカなんだ! 私は彼をうんしょっと浜に上げてあげた。海から上がると体重が重くて運べなくなるから、いまだにアンパンマンさんの体の下半分は水につかってしまっていた。溺れなかっただけ良かったと思う。 パシッと、腕が掴まれた。
「キッドだ」 「え」 「…ぜぇ、俺、の名」
アンパンマンさんはキッドというらしい。私は人間に自己紹介をされるのは初めてで、慌てて自分も名乗った。(というか、どうしよう、浜に上げたらすぐに海に戻る気だったのに・・・)
「…助かった。恩に着る」
仰向けでこちらを見上げてきたキッド、は、私がまだ人魚だとは気付いていないらしい。 なかなかの強面に似合わぬ、えらく弱々しい笑みを口元を描く。 その途端に私の心臓はきゅっと痛んで、言葉が一つも出てこなくなった。
「キッド船長−!」遠くからこちらに向かってくる足音。少し離れた港に停められたさっきの船には雄々しくドクロがはためいている。 「・・・かいぞく」
離れようとした私の腕がぱっと掴まれた。 「にげんな」 無音の世界。真っ赤な双眸の中には狼狽する私がいた。 キッドの視線がすいっと動いて私の尾びれを見つけた。思わず息をつめたが、キッドは別に驚いたふうもなく「そうか」と呟いた。
「俺も、中々悪運が強ぇな…」 「?」 「いや…なんでもねぇ」
キッドの手が私の腕から離れる。驚いて彼を見つめる。
「また明日、この浜辺に来い」 「!」
「礼がしてぇ」
足音が近付いて来た。キッドに見つめられたままの私は、首を振ることができずに小さく頷いた。 キッドは満足そうに笑って目をつむる。 その間に私は、浅瀬から深海へと戻った。
「キッド」
冷たい深海をくるりと踊る様に泳ぎながら、悲しみを打ち消そうと鼻唄を歌った。
たのしかったなぁ あの人間、キッドも面白かったし あんな綺麗な目を初めて見た ああ、楽しかった たのしかったなぁ
「キッド」
人魚の決まりなのだ。人間とは関わったらいけないって。 童話みたいな素敵な理由ではないし、泡になったりもしないけど、決まりは守らなければいけない。小さいころから父と母に口酸っぱくして言われていたものね。
「キッド」
明日はいかないよ だってキッドは人間で、しかも海賊なんだもの 売り飛ばされたらたまらないから
もしその気があなたになくたっていかないよ それが人魚のきまりだから
「さよなら、キッド」
また涙の海で会いましょう (私の涙で、また海がしょっぱくなったみたい) 0601 企画「塩辛い嘘」様 提出
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