私は今非常に誤った選択をしてしまった気がしてならない。例えるなら北海道に行くつもりが沖縄に行ってしまったみたいな。いやいやカレーライス食べようと思っていざ考えてみたらルー買い忘れてたみたいな!
とにかく私は今、このバーにバイトしてることを物凄く後悔しているわけだ。


「悪いんだけどこの酒向こうのテーブルに持ってってもらえるかい?」
「やだなあオーナー、嫌に決まってるじゃないですか」
「給料やらんぞ!ほら」
「ぎゃふ」

向こうのテーブルとは言わずもがな海賊が我が物顔で座っているあそこらへんの事を指すのだろう。
説明遅れました、うふふ、ここはシャボンディ諸島のほにゃららグローブ小汚いバーでございます。現在うちのバーには幾人かのお客様と海鳴り率いるオンエア海賊団とユースタス・キャプテン・キッド率いるキッド海賊団の2組の超新星海賊団体様がご来店なさっていやがります。


「お、客様…お酒お持ちいたしました」
「…テメェは?」
「しがないバイトでございます失礼いたしましたどーぞごゆっくり!」

素早く一礼して退散!
勢いよくカウンターに引っ込めばオーナーに御苦労と言われた。

「はい、次はあっちね」
「ひい!また海賊っ」
「いってらっしゃい」
「このくそオーナーめ!」

出された料理を携えてそちらへ向かう。チャイナっぽいお兄さんは料理とあたしを交互に見詰めてにやりと笑った。(何アレ虫歯!?)

「以上でご注文はお揃いでしょうか…」
「…いんや、まだだ」
「え」
「この島は珍しいもんが多いなァ」

チャイナさん(仮)の腕がにゅっと伸びて私の肩を抱いた。上げそうになった悲鳴はすんでで堪える。


「手土産にアンタさらってこうと思ってな」
「さ、さら…!」
「おォっと泣くなよ?オラッチは女泣かす趣味はねーンだ」
「!」

オーナーに助けを求める視線を投げかけたがあの野郎親指立てやがった(助けろし!)もうこの際誰でもいい!店内を見渡せば皆知らぬ顔、の中で一人だけこちらをガン見してる人間を見つける。
――…あきらめた。
だって本当にあのひと顔怖い…、さっき酒渡した時も怖すぎて顔上げられなかった。例えるなら、そう閣下「おい」

長い腕からすっぽり体が抜ける。あたしを引っ張り上げた張本人は、海鳴りを見下ろして鼻で笑った。



「こいつは俺が先に目ェ付けといたんだ、諦めな」
「海賊ってのは奪うが本業だろ?ユースタス・キッド」
「あ、下ろしてもらっても…?」
「良いわきゃねえだろ殺すぞ」
「ひいー!」
「おら油断してっと貰っちまうぜー!?」

担がれたと思ったら引っ張りあげられて、私はまたチャイナさんもとい海鳴りの腕に収まる。額に青筋を浮かべたキッドさんの攻撃はバーの壁を突き抜けて大爆発を起こした。ああ、大事な働き口が…けど、オーナーざまあ!
自分の体が爆風で浮くのを感じる。え、これ死ぬんじゃね?


「おい」
「ぎゃふ!な、ナイスキャッチ」
「テメェぼーとしてんじゃねえ、殺されてぇのか!」
「だってあたし一般ピーポーなんですよ超人的な技とかそんなん持ってないんですよふつうなんですよ!」
「うっせえ、じゃあしがみついてやがれ!」

言われた通りに刺々しい上着にしがみついたら痛かった。痛いと漏らせば、溜息吐いて脇に抱えられる。私を抱きながらキッドさんは颯爽と海へ向かって走る。


「…これからどこ行くんすか」
「俺の船」
「これ、ゆーかいって言うんです知ってました?」
「聞いたことねぇな」


キッドさんは豪快に笑って私を抱えなおす。もう諦めた方が良いのかもしれない、だってこの人諦めてくれそうにないし。よく考えたらあたしあのバー以外に心残り無かったわ。

さよならオーナー
今日を以てしてこのお仕事辞めることになりそうです
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