例えば空を飛びたいと本気で考えている人がいたとして、それは空想の中の妄想でしかない。現実にはなりえないバカな想像なのだ。だが、やがてそれに気付いたその人はその事実に絶望し打ちひがれ死を決意するだろうか。否、しない。過去の自分は何を考えていたんだ出来るわけが無いじゃないかと過去の自分を嘲笑して、あたりまえを気取る。

普通でありたいがために、自分の中で長らかに温めておいた夢を切り捨てるわけだ。



「あたしはそんな生き様を晒したくないの」
「要は後悔したくないんだろ」
「…後悔は嫌い」

一度決めた事を曲げるのが嫌い。
過去の自分の行為を否定するのが嫌い。存在そのものを否定されているようで。嫌いだ。


「キッドは後悔した事なんて無いんでしょう」
「ああ、無ぇな」


だから私はついてきた。キッドとだから、この海に出たのだ。

「俺が殺しをしたとして、その事実を後悔してみろ…殺された側はくそくらえ、って思うだろうがよ。」

後悔をしない為に最善を選ぶ。だからこの人の成すことは全て正解なのだ。たとえ間違いがあったとしても。謝ることがあったとしても其れが後悔につながることはあり得ない。なぜなら、このひとは私の。私達の支えとして成り立ってなければいけないから。船長とは、そういうものだ。船の長。いわばメインマスト。それがふらふらしていてはこの海を渡れない。誰もが知っている事だ。世界はどこまで行っても世界の縮図でしかない。

わたしたちがいるのはそういう場所だ。


「お前には後悔する暇なんて与えねぇ」
「…キッド」
「誇りに思え。胸をはれ。お前は未来の海賊王の隣りに居るに相応しい女なんだ」

目を細めてキッドは笑った。あたしも微笑み返す。
世界は世界の縮図だなんてよく言ったものだ。私の世界はまだまだこんなに広い。私の 太陽はまだ、こんなに明るく輝いているっていうのに…!
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