まるで水を蹴るような感覚だ。あとには何も残らないくせに、蹴り上げたその瞬間だけはその妙な重さと確かな存在をひしひしと感じる。この心に纏わりつく喪失感を俺は否めない。


「俺はお前を殺したい」
「あたしはローに殺されたい」


へらりと笑って返すわたしにローはむっとしたように言った。「俺は嫌がるお前を殺したいんだよ。それなのにお前が好んで俺に殺されたら意味がねェだろ。」まったくもって何を言ってんだかこの船長は。


「そもそもクルーを殺したいなんてどうかしてるんじゃないですか」
「俺達はどうかしてるから海賊なんてやってんだよ」
「そりゃそうだけども」
「俺がどうかしてんならお前も相当イカれてる。なんせ自分の船長に殺されたいなんて言ってるんだからな」
「わたしは船長に殺されたいんじゃなくて、ローに殺されたいの」
「俺だってクルーを殺したいんじゃない。お前の全てを俺が終わりにしたいだけだ」


ほらお前はまたそうして静かに笑うだろ。俺は実はその笑顔が結構気に入ってるんだ。だから掴んでも何も残らないと知りながらも俺はお前に手を伸ばすことを止めない。莫迦らしいが、いまさらだ。


「生きろよ」


もっとたくさん生きて生きて、やがて俺から離れ難くなったらそう言え。その時はお前の大好きな俺の手で殺してやる。

「ロー、矛盾してるよ」
「知ってる」

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