昔むかし、あるところにちっぽけな星がおりました
鈍く小さくしか瞬けないちっぽけな星がおりました
星はじぶんとは反対に
優しくあたたかいあの月に憧れを抱いておりました。けどある日とつぜん気付いたのです。
私がもっと輝くには、月を壊しにいくしかない
「その歌、お前が作ったのか」
「あ…。ロー船長、聞いてらしたんですか」
船の縁に背を預けて床に座り、膝を寄せるこいつの横に立って、おれは暗い海を見据えた。ざざん、波の音に混ざって先程の歌が耳の奥を撫でる。
「こんなに、寂しい夜は生まれて初めてです」
「…寂しい?」
「ええ。なんだか、とっても」
はらり、はらり。涙を頬にころがした、そんなこいつの姿を見るのは初めてだった。
いつだって笑顔を絶やさず誰にでも分けへだてなく接しているこいつの、初めて見せる弱く脆い部分。
「歌え」
「…え?」
俺には、それが
「お前の歌が聞きたい」
この世界で何よりも綺麗なもんに見えたんだ。
昔むかし、あるところにちっぽけな星がおりました
月にあこがれ月を憎む、ちっぽけな星がおりました
星がどれほど乞い願うも
優しくあたたかいあの月にはとうとう一歩も近づけぬまま。星は焦がれつつ消えました。
「ロー船長」
星はほんとうは認められたかったのです。
星屑となり果てながらも諦めきれず憎み続けたあの月に、
「わたしは、あなたを引き立たせたい」
じぶんもかがやいているのだ、と
「そのために。ロー船長が海賊王になる、その日まで…。どうか私たちに、星でいさせてはくださいませんか」
のせた想いを月は見た
あなたが月である限りは。
企画「涙墜」様提出