いつだったか俺はお前を護ると誓った。このでかい青に浮かべるにはいささかちっぽけ過ぎたその誓いをお前は笑って受け入れた。その日から俺の隣にお前がいることは呼吸をするのと同じくらい当り前なことに変わって
「キッド」
優しいまどろみの中の綺麗な声が聞きたくて。
名を呼んで振り返った時のあの笑顔に寄り添った温かい声が聞きたくて。
情事中の吐息と混ざったような甘く掠れたアルトが聞きたくて。
「キッド、泣かな…で、よ」
俺が、誓ったはずだ。
俺がお前を護ると、そう誓ったはず。
ばーか、泣いてねぇよ。言いたかった言葉は声になる前に酸素に溶けて消えた。
―――何も。できねぇ
この腕の中でどんどん冷たくなっていくこいつを俺はどうすることもできねぇ。この場にいるもの全て殺し尽くした。今、息をしてるのは俺とこいつだけ。もうしばらくしてこいつが呼吸することを放棄したら俺は本当に独りだ。
「キッド…そこに、いる?」
「……ああ。ここにいる」
良かったと笑ったそいつの唇に噛みついてやった。
何も良くないだろうが。
お前もうすぐ死ぬんだぞ。
苦しいだろうが
痛ぇだろうが
いつまで笑ってるつもりだよ、お前は俺に、…
「…泣かねぇのか」
「…キッドってば、変、なの。泣くわけ無、いのに」
しあわせ。と紡がれた言葉に嘘は無いように思えた。それが俺の思い違いだとしても運命に縋った過心だとしても、
「こ、な…しあわせな死に方って、きっと無 いもの。キッド…――― あ、」
最後の最後に俺の好きな耳触りのよい綺麗な声が創りたかった言葉は何だったのか。ありがとうか、あいしてるか。
途切れたその先を期待したが、こいつの心臓はとくりと一音弾いたっきり動かなくなった。
うたたね