その日は雲ひとつない快晴であった。特に大きな出来事も無く静まり返っていた長官室の扉が控えめにノックされたのは丁度午後二時を回った頃の話だ。


「スパンダム長官…いらっしゃいますか?」
「おう」

返答にもかかわらず扉は音を立てない。スパンダムは扉に目を向けたまま首をかしげる。
永延と動かし続けていた手を止めて扉の前にそっと向かった。
一度、呼びかけてみる。向こう側に居る気配はあるのに、返事は返ってこなかった。どうしたもんかと考えていれば、戸惑いを含んだ呼びかけが一つ。


「…スパンダム長官」

控えめな声は扉一枚通したこちらがわからでも良く聞こえる。
何か話があるなら入ってくればいいものを。

「何では入らねぇんだ」
「…それは気にせずにお願いします。長官、今そこにいますね?」
「ああ。いるが」
「でしたら今だけどうかそこを動かないで聞いて下さい」


どうしてだかめんどくせぇと断る気にもならずに俺は頷き扉を背にして床に座った。真正面に見える窓からは
穏やかな春の日差しが差し込んできてたまらなく眠気を誘う。

「スパンダム長官」

本日何度目かも知れない呼びかけに気だるげな返事を返す。


「あたしのようなものが言うのはどうかと思いましたし、何度か留まりましたが…やはりお伝えしておこうと思って」
「何でも良いからさっさと言えよ。俺ぁねみーんだ」


「お誕生日おめでとうございます、スパンダム長官」


一瞬言葉が出なかった。予想していなかったということもあるが何よりまずあの控え目な声の主の発した文章の優しさと含まれた暖かさに驚いたのだ。
扉の向こう側が急に気になってきた。真面目なアイツはきっと、自分で言った事に青くなったり赤くなったりしているんだろうが、俺はしっかりその顔を見といてやろうと思うわけだ。

かちり、取ってを回す音は存外に響いて聞こえた。
花がまばたく、吐息が綻ぶ
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