ガキというには大人びていて、女と呼ぶには幼すぎたそいつは飾り気のない白のワンピースを纏っていた。
俺の質問には答えず、ゆっくり近づいてきたそいつは俺の髪に手を伸ばして、固めていた表情を崩すように笑ったのだ。政府の危険物資だというのに俺は、
その小さな手が自分に触れる事を厭わなかった。理由なんて、俺が知りたいくらいだっつんだ。
「何がおかしいんだよ」
俺はそいつの前で屈む。
床に座り込んでいたそいつの目線の高さになって、少しだけ気付いた事は、体にある無数の痣と頬に残った涙の跡だった。
「…名前は」
名前、とはにかみながら。そいつは此処に来て初めて声を出した。
「名前」
名を呼んでやると嬉しそうに小さく頷く。嗚呼、俺はどうしちまったんだ。こんなチビガキでも重罪人であることは間違いねェだろううが!情に絆されるなんて俺らしくもねェ。
だが、考えとは裏腹に俺はそいつを引き寄せて腕に収める。
「…ちっせえなあ」
俺は政府の人間だからオハラの科学者達のもとで育った重罪人であるお前を殺さなきゃなんねェわけで。それでも、躊躇いがないわけじゃ、ねェ。
「死ぬのは、嫌だろ」
「だいじょうぶ」
「だ、大丈夫なわけあるかヴァァカ!…………――――、大丈夫じゃ、ねェだろうがよ」
「…へんなの」
相変わらず笑ったまま名前はスパンダムに向かう。
その瞳は 幼いながらに優しさをたたえ、スパンダム自身をたまらなく揺るがせた。
どんな悪人に対しても常に非情卑劣に在ったスパンダムの信念はこんな少女に出鼻で挫かれたのだ。名前には、欲が無かったから。
生きたいという欲も、
死にたいという欲ですら…彼女には見受けられない。
「あなたの…なまえ、は?」
「…スパンダム」
「すぱんだむ…!」
名前は嬉しそうに目を細めて、スパンダムの首にぎゅうと抱きついた。名前のふわふわとしたすすき色の髪がスパンダムの頬に触れて、揺れた。
スパンダムは名残惜しげに名前を離して、電伝虫で部下を呼ぶ「このガキを連れていけ」『はっ』名前の目にはまだ少しの恐怖も映されていない。
やがて海兵が一人来て、名前の腕を拘束しながら部屋の戸を開いた。
スパンダムが最後まで名前かから目を離さずにいると、最後の最後で名前は振り向きにっこり笑って小さく手を振った。
戸が閉まってからスパンダムはもう一度電伝虫を手に取った。
「……ああ、俺だ。これから司法の塔に男とガキが向かうだろうから、その男、消せ。ガキは殺すなよ。無傷で俺の元へ連れてこい」
気に入っただの、そんな軽い感情で俺は動かねェ。あいつは 名前は今ここで死んでいいような人間じゃないから 助ける。それだけの事だ。誰にも文句は言わせねェさ。これが、
致命的な接触
これがおれのやりかただ