ざらざらとした砂が足もとに絡みつく。其れを振り払って街の中を走り抜けた。黒いフード目深にかぶり直してから、上がった息を落ちつかせるために建物の隙間に入り込んだ。壁に背を預けずるずると腰を下ろす。(やっぱり…裏があったんだわ)ポケットから取り出した報告書に現状報告を載せようとペンを滑らせていればしかし、瞬時にそれらは砂と化してしまった。背中を汗が伝い、真上から降ってきた低い声にわたしは身震いした。



「何をコソコソしてやがる。この俺に、言えねェことでもあるのか」
「…クロコダイル……!」
「どうした。ずいぶん怯えてるじゃねェか」

直ぐ目の前に降り立ったクロコダイルをきっと睨んで、噛みつくように言葉を並べたてた。


「王下七武海、サー・クロコダイル。アンタの謀りは見えたわ…!これ以上好き勝手はさせない」
「てめェが海軍のスパイだった事なんざ、初めから解かってた。それでも俺は一応お前を気に入ってたんだがなァ…」

名前の瞳が一瞬揺らぐ。その一瞬で、クロコダイルは名前との距離を詰め悲鳴を上げかけたその口に指を捻じ込んだ。苦しそうな呻きを聞いて、喉の奥で笑う。金色の鉤爪で名前のやわらかな前髪を押し上げて、涙の滲んだ瞳を覗きこむ。(ああ、やっぱり良い色だ)


「ふう、んく…む…!」
「お前が今更どう足掻こうが、もう遅ェ」

名前の細い腕がクロコダイルの首に添えられた。怨みの籠った視線が孕んでいたのは妙な戸惑いと熱。目敏く気付いたクロコダイルは口元に浮かべた笑みを深くした。

ああ、そうだ。こいつはとっくに俺のモンじゃねェか、



「おい、早くしねェか…。―――――俺を、殺してみろ。」

「………っ」

そう促せばその細腕に力はこもるが、決定的な殺意は感じない。思わず漏れた笑いを止める気は起らなかった。
指先に触れる舌を器用に弄びながら、羞恥にか染まる頬を愛おしく感じた。まだその目に反抗の期を伺う色が消えないうちは、躾が必要そうだな。

「ふ、ぁ……ん!む」
「てめェが悪ィ。大人しく飼われてりゃ、良かったのになァ…」

躾が。そうだな、もうこんな気が起きねェほどの、決定的なそれが必要だ。


「クハハ…!楽しみだぜ、名前」

てめェを壊した後のことはさっぱり考えてねェが(とりあえず今は俺に壊されろ)