何やかんやで教師になった俺の人生はこの"変人奇人集結ガヤガヤ馬鹿バッカクラス(命名、俺)"を任されたあの瞬間から嫌な方面へと助走をつけて走りだしていたようだ。それを裏付けるように今俺の目の前で背筋をぴんと張って座っている一人の女子生徒は果てなき馬鹿なのである。



「スパンダム先生、自分のクラスの生徒には愛情を持って接するものでしょ」
「朝っぱらからドアに黒板消し仕掛けてウキウキしてるクラスを愛せと言うのかテメーは」
「若気のいたり」
「ホラァ!お前ら自分達に非のあることがありゃあ直ぐソレだ!俺が今日一日で何度『若気のいたり』ってワード聞いたと思ってんだ!!」
「ねえ先生わたし今日ドラマの再放送見なきゃいけないんで帰ってもいいですか」
「俺の方が万倍帰りてェよ!」
「いいよ」
「いや何様!?お前の所為で残るハメになってるのに」
「自分に責任の持てない大人は嫌いです」
「しばくぞ」



バァン!饒舌に口のまわるそいつの前にある一枚の紙を叩きつけた。






「なんですかこれ。ラブレター?」
「進路希望調査書!」
「なんですかそれ。早口言葉?」
「確かに三回は言えねェだろうけども!!いやもうそれはいい、問題はコレだ、将来の夢!」



世界制服



「どォォオオいうことだよ!!!」
「世界を征服するという意味です」
「言葉の意味は分かるが理解はできねェしたくねェ…あと、漢字まちがえてるよ」
「あ」



もう嫌だ俺はお前達とこの先一年も一緒にやっていかなきゃいけねェのか…進路希望に世界制服と書くのはまだ序の口だ。まだクラスの3分の1も希望しか見てねェが珍回答が占めているのは言うまでも無い。お先真っ暗ってのはこの事だ。


「書き直しました」

はい、と渡された紙を見れば『世界制服』は二重線で消され、その隣には丁寧な文字で『新世界の紙になる』と書かれていた。もう勝手にしてくれ、紙にでも神にでもなってくれ
項垂れる俺に向けて、あのね、と笑うバカを見る。


「先生、将来の夢は、ひとつじゃなくてもいいんですよ」


それじゃ!とそいつはにこやかに手を振って教室を出て行ってしまった。オイオイオイオイ…何の解決もしてねェよ!畜生コノヤロー!散々ぼやきながらもう一度その紙に目を落とせば、右隅に小さく、まだ何か書かれていることに気が付いた。第一希望、スパンダム先生のおよめさん
俺が寂しい独身男と知ってこの冗談ならあまりに酷い仕打ちじゃねェかと思ったが、帰り際に揺れた髪の隙間に一瞬見えた耳が真っ赤だったことを考えるとどうも笑えねえ。
何より笑えないのは俺の煩く鳴る心臓だ。やめろォオ!とまれー!あ、とまるな死ぬ!


とりあえずこの後の俺の時間殆どが、明日アイツの前でどういう態度をとればいいのかを考えることに割かれたのは言うまでも無かった。
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