私がレストランで注文した料理をもぐもぐ頬張っていると、私の向かいの席に金髪で見るからに下心のありそうな男が座ってきた。

「相席いいかな?」
「どーぞ」

私の機嫌は追加で注文していたピザが目の前に置かれたことによって今までを若干上回る。図々しくもこのあたしの目の前に腰を下ろした男は、私を舐めるように眺めまわした。あーうざったい。

「君、この島に住んでるの」
「まさか」
「じゃあ船乗りか何かなのかな?」
「そんなもんです」
「乗組員とははぐれたのかい」
「まさか」

皆あのひとに付いてって酒場で飲んでるんじゃないかな。そう言った私を見て、男がニヤリと口元を歪めたのを、私は見逃さなかった。


「この島には今11人もの億越えルーキー達がいるんだそうだぜ」
「へえ、そんなに」
「俺はこれでも一応海賊船の船長でね。億越えとまではいかないが7千万の賞金首やってんだ」
「へえ、それはまた」
「ともあれこんな危ない島にレディひとりとはいただけない…。僕が君の仲間のところまで送って行こう」
「え。どうして?」
「だから言っただろう?この島には危険な奴が大勢いるんだ」
「あなたは危険じゃないの?」
「僕は紳士的な海賊だからね。それに強いから君を護ってあげられるよ」
「そう。じゃあ危険な海賊って例えば誰?」

相変わらず食べ物を頬張りながら、私は彼に尋ねた。男は一瞬間をおいて、思い出したように口を開いた。


「3億1500万の賞金首のユースタス・キッド。あいつは良い噂は聞かないね。」
「…ふうん」
「目のあった奴を片っ端から嬲り殺すって噂だ。残虐で無情な恐ろしい悪魔さ」

ごちそうさま、と手を合わせる。彼は自分の頼んだワインを一口飲みテーブルの脇に置いて立ちあがった。本気で送る気などさらさらないだろうに。あーあ、ばっかみたい。

「ゴメンナサイ親切で紳士な船長さん」
「え?」

私は座ったまま、立ちあがっている彼を見上げる。

「送り狼は結構よ」
「なっ」
「あなたの言う残虐で無情な悪魔が、いま。迎えに来てくれたようだから」


言葉と同時に後方の扉が開き、見慣れた赤が目についた。男は唖然とし、次第に顔を青くさせていった。私は腰にあるホルスターから銃を抜き取り、男の飲みかけのワインを撃ち抜いた。ひっ!と情けない声が漏れる。店内がシンと静まり返った。


「うちの船長は目が合っただけで人殺すなんてことはしない。あんたと違ってちゃんと芯の通ってる人だから」
「何遊んでんだ、名前」
「だってこのひとたかが7千万かけられたくらいで威張ってるんだもの。いい?良く解かってると思うけど。うちの船長は3億1500万よ」
「面倒くせェな。帰るぞ」
「待って後ひとつだけ言わせて!」

「海賊が紳士的だなんて笑っちゃう。そんなんじゃ新世界では海の藻屑ね」


屈辱に歪められた男の顔を見て、私も淑女らしく「ごきげんよう」と述べた。それからキッドの腕をとって、さっさと店を出る。


「せっかくの美味しいごはんが台無しだわ…!むかつく」
「フン、お前イイ女になったな」
「ほんと?どのへんが」
「俺のことで怒る時の自分の顔、鏡で見てみろ」
「?」
「ありゃ、俺が認めちまうほどいい」

背筋凍るような、冷たい目。
氷の女王

ぞわりと食いつきたくなる。
だから俺はお前の罵倒する男なんざ欠片も目に入らねぇし、怒りなんざ湧くはずもねェってわけだ。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -