独占欲は、彼女を愛してこそである



この春、花の女子高生となったわたしだけど通学途中パンをくわえながら走って曲がり角でステキな出逢いをしたなんて事もないし、階段から落ちそうになったところを王子様みたいな人に救われたなんて事もない。至って平凡な毎日を送っているわけだが、そんなわたしにも一つだけ悩みの種が存在する。この種はもうなんかダメなのだ。発芽して早急にむしってもまた新たな場所にさっきより逞しい芽を出しちゃうような極めてパワフルで迷惑な種なのだ。


「ユースタス屋か…そりゃお前も大変だな。」
「アンタの事だよ」
「胸のサイズについて?俺に手伝ってほしかったらいつでも言え」
「死ね」


デリカシーの欠片も無いこの男。高校に入って第一回目の席替えで隣同士になってから、何の所縁か今に至るまでずっと席が離れない。いい加減にしてほしい。何かと行動を共にするようになってきてからというもの、下から少ない女友達がさらに減ってしまった。

それと言うのも、成績優秀スポーツ万能容姿端麗の3大モテ要素をしっかりキープしてしまっているこいつ、トラファルガーが悪いのだ。



「ダイエット?お前そんな無意味なことしてんのか」
「無意味と言うな」
「今も十分痩せてるだろうが」
「贅肉は隠れている所に潜んでるのだよ」
「今のは他の女共に相当な厭味だぞ」
「え」
「俺が『イケメンになりたい』って言うのと同じくらいの厭味だな」
「その自信がどこから来るのか知りたいわ」


屋上。ランチパックを頬張りながら、購買で買った苺豆乳のパックにストローをさす。ローは焼きそばパンと缶コーヒーだ。それがまたブラックで、甘党のこちらからしてみれば意味が解からない。あんなものをゴクゴク飲んでいるローの気が知れないってもんだ。眉をひそめるわたしに気が付いたようで、手に持っていた缶を差し出してきた。

「いらない。苦いの無理」
「良いから飲め」
「…」


ローの瞳は妖しく笑っている。
こういう時は大抵良からぬことを考えているので、あまり関わっていたくはないのだが逃げれば後が怖いので、大人しく缶を受け取る。ゴク、それは意に反せず苦かった。一口含んで返せば、よくできましたと目で褒められる。いつにも増して理解不能だ。

「こっち向け」
「?」


不意に伸びてきた手はわたしの髪を撫で、耳に触れた。意図が読めず首をかしげるわたしの唇の横に、ローは小さく口づけた。な、ななな…何してくれてんだコノヤロウ!!もはや声も出ない。
その時ガチャリと音がして、誰かの走り去る気配を感じた。


「(行ったな)」
「…なに?」
「いや。…それよりダイエットだったか?良い方法がある」
「え?」

ニヤリと笑ったローは、私の耳元に口を寄せた。
「        」
「んなッ!!」
「胸もでかくなるし痩せる。まさに一石二鳥で―――――」


バチィィンッ!!足音荒く屋上を後にした彼女を見送り、溜息を吐いたローの右頬には真っ赤な手形。クツクツと笑うローの脳裏にはさっきの出来事が蘇っていた。


まんまるく見開かれた瞳
真っ赤に彩られた白い頬


先程影で覗いていた名も知れぬ男子生徒は、数日前からあいつに好意を寄せていた男だった。
今回刺した釘が吉とでるか凶と出るか。
アイツに誰ひとり男が近付かぬよう。(まあ、その点は俺が近付かさせなきゃ良いだけの話だが)とにかくそろそろ本気を出すことにするか。あいつが他の誰かに夢中にならないうちに。そう、


あいつの中にいるのは、俺だけで十分だ。