海賊と言う稼業は危険の上に成り立っている。

海王類に追い回されたり海軍に追い回されたり賞金稼ぎに追い回されたり、するわけだ。だからこそ一日が終わる時に呑む酒は美味いんだとキャスケットは豪語していたけれど、やっぱり私は何事もなく一日を終えることが大切なんだと思う。思う。思う、けど、その今日と言う一日が終わるまで後30分といった所であたしは今世紀最大の危険にブチ当たってしまった。
自分でも顔から血の気が失われていくのを感じた。


「……―――キャプテンの誕生日、今日じゃん」

ヤバイヤバイヤバイヤバイ!どれくらいヤバいかというとマジヤバイ!あれ?何かどっかで聞いたことある台詞だな!けどそんなこと言ってられないくらいのヤバさだ!
そう言えば今日キャプテン一日中不機嫌だった気がする。そんで「オイ、今日何日だ?」って聞かれたんだ。お昼ごはん食べてる時に。「10月6日です。トロの日ですよアハハ」なんて答えた記憶が鮮明に残ってるよどーしよ

(だ、だいじょうぶまだ30分あるし。

…全く考えつかないけど)


どうすればよいのでしょうか。キャプテンの好きな物って色んな意味で変なものばっかりだから嫌なんだよね。例として挙げてみるなら、ほら、心臓とかそのへん?プレゼントしたら確実にオダブツだよ、みたいなものが占めてるわけで。つまり要するに絶望的、だ。


「へー、その焦り様からすっと」
「やっぱり忘れてたんだな」
「…女の子の部屋にノックなしで入るとかどういう神経してんの助けて下さいお二方」

ペンギンとキャスケットはノック無しに入ってくると「そんな事だろうと思ったぜ」なんて言って紙袋を手渡してきた。訝しげに思いながらも中を確認する。直ぐに閉じる。近くにあったチャッカマンを持ち出せば本気で二人に止められた。男の夢?知るかそんなん!

「じゃあ他に渡すもんあんのかよ?」
「・・・」



コンコン、控え目にされたノック。ローは読んでいた本から視線を上げた。

「何の用だ」

誰だと聞かないあたりから相当なお怒りが聞いて取れる。怖!もう帰りたいんですけど。回れ右しかけた足を根性で踏み留めて、ゆっくりと扉を押した。不機嫌オーラが隙間から溢れだしてきたのですぐさま閉めた。

「ヒー!」

ドアの隙間に刀の柄が挟まれた。セールスマンの如き押しに耐えられずに取っ手を離せば、不機嫌丸出しのキャプテンが扉を開け放し、そして固まった。


「………何だその格好」
「え」
「何だって聞いてんだ。10文字以内で簡潔に述べろ」

無理ですスンマセン!と叫びながら背を向けると、後ろから腰に腕を回されてそのまま部屋に連れ込まれた。壁に掛かっている時計は11時51分を指している。キャスケットめペンギンめ!この提案をあたしにした事怨んでやる。末代まで呪ってやるぞチキショー!


「ナース服ですよ!男の夢です!文句ありますか!」
「逆ギレか…」
「だってキャプテンが怖くするから」
「お前が俺の誕生日を忘れるのがいけねェ」
「うっ…」
「まさかトロの日がくるとは俺も予想だにしなかった」
「ごめんなさいいいい!」


申し訳なさでいっぱいのあたしを前に、キャプテンは妖しく笑って首を傾げた。


「それで?」
「え」
「プレゼントは"ご奉仕"で良いんだろう?」
「そ、そんなわけ…」

ない!と続けるより先に、キャプテンはあたしの唇に噛みついた。これがまた何時もとは何かこう、違う…その気にさせるような甘いキスで困ってしまう。酸素を求めながら、自分の足の力が抜けていくのを感じる。必死でキャプテンにしがみつきながら思ったのだ。
(何が一番危険って、そりゃ…)
誕生日おめでとう御座いました