じりじりと暑い日差しが教室に差し込んで、扇風機の存在何か完璧に無視するように
勉強中の生徒達を窮地に追い込ませる。

こんな日のこんな時間に"数学の授業"はまさに、地獄といえよう。


「あ゛――――――…あづい」

教室の最後方。窓側のいちばん端の席で名前は唸った。
肩程度の髪を高い位置でポニーテールにして持参のうちわでぱたぱた小さな風を送る。
それで無くなる暑さだったら苦労しないが、今は真夏や真夏。夏休み手前の、一番苦痛な時期なのである。


「あんまり暑いあつい言ってやるな」

「こっちまで厚くなってくるだろーが」

それに続くのはクラスの問題児2人組。キッドとローだ。何時もの威勢はどこへやら…、
二人とも憔悴しきっている。特に、ローは生まれが北国だとかで暑さにはてんで弱いらしい。
かく云う名前も相当な問題児ではあるが、授業をサボったりする程度で、
喧嘩で校内の器物破損常習犯の二人より幾らかマシだと、自分では思っている。


「サボっちまおうぜ」
「いいねー」
「駅前のコンビニ辺り行くか」

「そこ、堂々とサボりの企画たててる気力があんなら前来て問題解けー」

げっ、と三人そろって視線を前に向ける。
そこにはこめかみをぴくぴくとさせた教師が仁王立ちで立っていた。
先生タンマ!私は声を上げる。(一瞬で皆がこっちを向いたけど知ったこっちゃない)

二人に目配せをして、口元に笑みを浮かべた。

「ごめんなさい、私達が悪かったです。問題解くんで許して下さーい」
「…いいだろう」

素直な私に気を良くした先生が別の方向を向いた時をねらって方向転換。向う先は窓だ。
ここは二階。常人には高いかも知れないけど
あたしら問題児トライアングルは何の事はない高さである。先に飛び降りた二人が、下で待っていた。


「じゃあ諸君、しっかり勉学に励んでくれたまえ!」
「あ!こら、名前っ…お前また」
「バイビー先生っ」

ふわりと、華麗にジャンプして上に過ぎ去る景色を数秒楽しみながら着地。
あたしってば今日もビューティフォー!

「悠長な事してるひまねーぞ」
「ユースタス屋の言う通りだ」

ほら、と顎先で示された先には何人もの教師達が私達を追いかけるべく、玄関から出てきている。
そういやあたしら上履きのまんまだ。

「靴、どうする?」
「んなこったろうと思って取ってきといたぜ」
「うっし!」

直ぐに履き替えて走り出す。
ゴミ捨て場の脇にほったらかしにしてあったキッドのバイクに飛び乗る。
キッドがエンジンをかけている間に教師陣はすぐそこまで迫っていて、ローが笑いながら催促した。


「わかってる、つーの」
「出発〜っ」
「くく、」

キッドの運転は何気に安全で、後ろに乗ってるあたしとローを落とさないようにしながらスピードを上げていった。
ぐんぐん後ろに流れる景色が綺麗で
ほっぺたにあたる風が気持ち良くて
なんかもう楽しくて面白くて、大声で笑った。

つられてローも笑って
なんだかんだでキッドも笑う。

こういう日々がずっと続けばいいのに、なんてありきたりな事を考えながら
でも刺激を求めて日々変わっていく世界を楽しんで。嗚呼、矛盾!
(あ、サイフ忘れた)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -