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この島のログが溜まるにはもうしばらくかかるらしい。暇つぶしに、と街中をぶらぶらしていてもアンドリュー君やマリアちゃんに逢うことは無かった。何だかちょっぴり寂しい!そんな私の目に飛び込んできたのは真っ赤なバラ。


「うはー…綺麗……!」
「お嬢ちゃん買ってくかい?1本5ベリーだ」


景気のいい声に引き寄せられて道端の花屋に足を向ける。




「はい、キッドさん…コレ私からの気持ちです!」
「バラじゃねェか」
「キッドさんにこそ相応しいと思ったので、つい」
「…いらねェ」
「そ、そんなぁ」
「俺がこんなもん持ってても恥ずかしいだけだろうが!」
「そんなこと無いです素敵ですビューティフルですハアハア」
「キモい」
「せっかく買ってきたんだから貰ってくださいよぉ!こんなに綺麗なのに」

眉をひそめたキッドさんは、バラの花をひとつ抜き去ると乱暴に私を引き寄せた。そして驚いて固まるわたしの髪にするりとそれを挿し込む。至近距離に、満足そうな笑み。


「こっちのが、幾分マシに見えるぜ」
「キ、キッドさん……!」





「やぁん、キッドさんったら!そんなこと言われたら、なまえてーれーるぅっ!」
「嬢ちゃん。よだれよだれ」
「…アウチ!いっけね★SMTに入ってたぜ」

そうだ。バラを買おう!
キッドさんと私のときめきメモリアルの為に、バラは必需品だ…どうして今まで気が付かなかったんだろう!私のおっちょこちょい!
キッドさんはたぶん今二日酔いでおねむだから、起きたら部屋をバラで一杯にしといてあげなきゃ。こんなサプライズ、喜ばないはずがないもの。いざ行かん!さよなら私の全財産!!


「バラ、100本ください」
「当店にゃそんなにありません」
「えええ!それじゃ『キッドさんのお部屋フラワープロジェクト』が成立しないじゃない!」
「おじさんに言われてもね…」
「うう…どうしてお花屋さんなのにバラの百本や二百本ないのさ」
「今朝までは100あったんだけどねェ、嬢ちゃんが来る前に半数ほど売っちまったのさ」
「バットタイミング!」


一体どこのどいつだ!私の『キッドさんのお部屋(略)』を邪魔する不届き物は!けしからん。

「残り全部で良けりゃ売るが…」
「50本じゃ足りない気がするけど…うーん、買います!」
「まいど!」

オジサンから花束を受け取って私は再び妄想にふける。ウフフー、キッドさん喜んでくれるかな。まあ十中八九怒るだろうけどツンデレ故だものね

「誰かにプレゼントかい?」
「そうなの、愛しのダーリンに!ありがとおじさん!」
「いやいや。そう言えばさっきバラ買ったお客さんも誰かにプレゼントって言ってたなァ、確かそのバラみてぇに真っ赤な頭の……嬢ちゃん?」

そこになまえの姿は無く、一瞬だけ浮いていた黒い穴もまたシュルンと消えてしまったのであった。

 
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