三成の案外柔らかい銀髪が風に揺れている。
辺りは深い闇に覆われているが、月の光が三成の髪にキラキラと反射して眩しいくらいだ。照らされた横顔はひどく端正で、作り物のようだった。


「…何を見ている」
「なにも?」

ワシの視線に気付かないはずもない彼は、そのまっすぐ過ぎるほど真っ直ぐな琥珀色の瞳を向けてきた。その視線すら、その声すらも美しいなんて。
その頬に触れて、壊れ物のように大事に大事にそっと包んで、ただ一言、言えたなら。
余計な傷はお互いにない方がいいのはわかっていることだけれど。


「貴様、何を考えている、家康」
「お前のことさ、三成」
「嘘をつくな」
「本当だよ」


三成の細い手をとった。
振り払われるかと身構えたが、不思議そうな顔を浮かべた三成はしかし、ワシの手を振り払ったりしなかった。…そういうところが、ダメなんだよ三成。だからワシみたいな男につけこまれるんだ。

本能のままに引き寄せた。
三成の細い体はそのまま腕の中に収まってしまって、今更罪悪感がこみ上げてきて困ってしまう。


「いえや」
「ワシはまだ一人で生きて行けるよ」


笑って、嘘をついた。
本音とは真逆の嘘をついた。
嘘を嫌う彼に嘘をついた。
ごめんな、三成。


ゆっくり解放してやった。
訝しげな視線を送る三成が、ワシにそれ以上追求することはなかった。
真っ直ぐな男だから、ワシの嘘になんか気付かないだろう。それでいい。


口づけはさすがに出来なかった。
でも最後の体温をわけてもらえた。
それで十分すぎるほどもらってしまった。
愛しい三成。



「おい、家康!!」
「ん?」




「 」




…決めたはずの覚悟が、揺れそうだな。




お題配布元様
偽りの愛でもいいから