勉強が出来ない人は、きっと出来ないなりに何かしら理由はあると思う。
もちろん、ワシだってある。


綺麗というか、可愛いというか。
同じ男に向けた言葉なのに、男に向かって言うような褒め言葉ではないのは何故か。
――そんなことは知らない。
だって実際にそうなのだから仕方ない。

細く、いっそおかしくなりそうなほど白い指にはもうシャーペンは握られていない。
優秀な三成のことだから、もう回答を書き終えたのだろう。
それでも居眠りをすることもなく落書きをすることもなく、答案用紙を見直す姿はまさに学生の鏡だといえる。
既に考える事を諦めたワシとは大違いだ。


(ああ、かわいーなぁ)


「0点でおじゃ」
「え、」

三成の世界(妄想の世界)にすっかり入り込んでいると、それを覚まさせる声。
特有の語尾の頼りないその声は、紛れもなく美術の今川先生であり、たった今進行中の美術のテストの監督の先生であった。

「0点でおじゃる!カンニングとは許せないおじゃ〜!」
「ワシはカンニングなどしてないぞ!!?」
「嘘は良くないおじゃ!今石田三成の答案を見ていたのをまろは見たおじゃ!!」
「なっ、」
「なんだと!!?おのれ家康ゥゥゥ!カンニングなどという姑息な手を使わずに正々堂々勝負出来ないのかっ!!」

心底イラついた三成の怒声をもらったが、誤解である。
ワシはカンニングという姑息な手は使わない。
解らなかったら解らないままだ!!
このまま卑怯な男だと誤解されても嫌なので、負けじと声を張り上げる。

「ワシは三成の答案など見ていない!」
「ならば何をしていたのだ!!」
「三成があまりに可愛かったから眺めていただけだ!!」
「気色が悪いっ!!」

三成の怒声と共に教室から冷たい視線を感じる。

「とりあえず職員室おじゃ!!」

教室中から哀れむような視線を受ける。
なかでも三成の視線が一番怖い。
殺気で殺されそうな勢いだ。
ああでも、そんな顔すら可愛いなんて!!


(ワシ、三成には勝てる気がしないなぁ)



授業に集中出来ないのはあの子が大好きすぎるせいです。







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