チョロ十
じめじめとした湿気が肌を包んで不快さを助長していた。少し前にエアコンが壊れてしまったから、扇風機しかこの部屋を涼しくする機会はないのだが、残念ながらその扇風機も五男のめくられたパーカーに占領されている。扇風機を直接あてて腹を下したことが何度もあるはずなのに、バカな弟は学習できないらしい。
そんな十四松の、上がりっぱなしの口角が一瞬だけぴくりと引きつったように見えた。
「あは!チョロ松兄さん、聞こえなかったっす!」
「愛してるって言ったの」
今度は完全に固まった。
外から聞こえるひぐらしの鳴き声だけがやけに大きく聞こえる。
もう、夏も終わりだ。
「…聞きたくなかった」
張り付けられた笑顔のままぽつり、溢された言葉は当たり前すぎるほど当たり前だった。
「だろうね」
自分でも笑ってしまう。
分かってるんだ、男同士だということは百歩譲って良しとしても僕らは兄弟でしかも六つ子。自分と同じ顔を見て愛してるもなにもないだろう。
それでも、世話をやくたびにありがとうございまっする!と無邪気に笑う顔に惹かれていったんだ。一見頭の弱い十四松だけど、実は誰よりもちゃんと考えていて、そうだ分かってる、馬鹿なのは僕の方。
十四松が困ったように眉を顰めたのも一瞬で、それきりそんな話題などなかったかのように、いつも通りバランスボールの上に転がっていた。
僕も十四松もなにも言わなかった。
静かな空間に重苦しい空気だけが漂っている。
最悪だなあと思った。
2016/08/21/11:04