DIO承

彼に愛されるのはどんな人なのだろう、と整った横顔を見ながら考えた。
高い鼻筋に長い睫毛、分厚い唇に金色の瞳をもつその人は、こちらの考えなど微塵も興味がないといった様子でワインを口に運んでいる。少しウェーブのかかった柔らかそうな金髪が揺れる。夜を見下ろしながら深紅のワインを口に運ぶ様が絵画のように似合っていた。ただのウェイターである自分が彼を見つめていられることに罪悪感を覚えそうだ。個室がいいとの希望通り、用意された部屋は他の空間と隔てられており、現在この場所には自分と彼しか存在しない。彼の待ち人はどうやら少し遅刻してくるようだった。彼がこの店にきてからすでに30分弱が経過しているが、時間を気にしている様子はない。注がれたワインの色を楽しみ、匂いや風味、味を楽しみ、大きな窓から見える夜景に目を細める。待たされることに慣れているに違いなかった。

「なぁ、君」
「は、はい」

突然の呼びかけに声が裏返ってしまった。
ワイングラスをテーブルに置き、夜景を眺めていた視線をまっすぐに向けられる。琥珀色のその瞳に吸い込まれそうだ。心拍数が上がるのを感じる。

「ここの景色は実にいい。夜の闇に光が散りばめられて宝石のようだ」
「あ、ありがとうございます」
「ワインもなかなかうまい」

いい店だ。そういって微笑んだその人は、確かに男であるはずだが一層心臓の音が激しくなった。どうしてか声に妙な色があるのだ。生まれながらに人を引き付ける魅力というのはこういうことを言うのだろう。くらくらと眩暈すら感じる。

「私は美しいものが好きだ。景色も、物も、もちろん人もな。このDIOのものはすべて美しくなきゃあならない」
「はい」
「その点、この店はいい。奴も気に入る」

DIOと名乗るその人はやはり自分の魅力を知っている。いい加減見つめられているとどうにかなってしまいそうだ。低い声がいつまでも甘さをもって耳に残り、離れない。

「どこか、具合でも?」

す、と背中に手が置かれる。いつの間に隣に来ていたのだろう。すぐ隣から美しい男が自分をのぞき込んでいる。息が自然あがるのがわかる。この感情は何だろう。近距離にある長い睫毛が瞬くたびに頬に影を落としている。心臓が痛い。甘いにおいがする。背中に置かれた手は冷たい。熱が奪われていくような錯覚を覚える。体を動かすことができない。

「助けてやろうか」

耳元で囁かれた声に小さく悲鳴がもれた。
ああ、この感情は、恐怖だ。



「俺以外に手を出すとは感心しないな、DIO」

このまま死ぬのではないかと思った刹那だった。
男とは別の低い声が耳に入った。静かだが、しかし威厳と威圧のある声だ。

「フン。貴様が毎度毎度遅れてくるのが悪い」

ゆっくりと背中から手が離れていく。途端に冷たい汗がぶわりと体中を覆った。冗談ではなく、あのままだったら自分の命は確実になかっただろう。なぜだか確信があった。自分の命を救ってくれた男の待ち人は一目見ようと顔を上げて驚愕した。金髪の彼と同じく背の高い男は、これまた金髪の男に引けをとらない美丈夫だったのである。帽子からわずかにのぞく髪は艶やかな漆黒で、緩やかに波立っている。長い睫毛に覆われた瞳は、エメラルドグリーンの色をしていた。分厚い唇から小さく息が漏れる。ため息を吐くだけの仕草がここまで完成されたものになるのだろうか。おそらく東洋の血もひいている。いったん落ち着いたはずの心臓がもう一度大きく跳ねた気がした。



2017/02/20/16:13


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