1001


昔から、暗闇を歩く時に灯りを必要としなかった。何故だかは未だに知らないし、興味もない。ただ、夜が深くなっても灯りを使わないため、秀吉様のために使える資材が増えるのは好都合だった。
昔から、何かを行動に移す時は一人で行っていた。秀吉様や半兵衛様に許可をいただき、自ら考え、己のみで行動していた。刑部はそんな私を私らしいと言ったし、また、私は他の誰かに頼る時間こそが無駄と思えて仕方がなかった。
昔から、冷えには弱い体質だった。雪の降る季節は勿論、太陽が消え去り風が強く吹く日でさえ、床についてから寝付けないことがざらにあった。


ずっと昔からそれが私であった。
私は私以外の何者でもなく、私として生きてきたのだ。そうやって、ずっと。


「石田三成」

名を呼ばれたが、声のする方へ目を向けるのも億劫だ。名も顔も知らぬ徳川の兵であった。今日、今から私の刑が執行されるという。たったの一度でも会話をしたことのない、初めて顔を合わせるであろう目の前の兵士が誇らしげに、そして私を蔑むように笑った。貴様なぞ、どうでもいい。

ああ、憎いのは奴なのだ。
暗闇を歩くのに灯りを必要としなかった私に、貴様は光を寄越した。貴様から発せられる光でもって私の闇を照らした。今となってはもう、私は光をなくし暗闇を歩く術を忘れてしまった。
何かを行動するときはいつも一人だった私に、貴様はともに行くと言った。どれほど私が煩わしいといっても、私の隣から離れなかった。挙句の果てには放っておけないなどと。今、私の隣には何もない。一人で歩くことはこんなにも心細かっただろうか。
冷えには滅法弱い体質だった私に、貴様は二人寄り添えば寒さなど消えると笑った。今、私には分からない。独りで眠るあの寒さからの守り方が。


貴様は私からすべてを奪い、私ですらも奪っていったのだ。1人で生き抜く術も、ともに生きるという選択肢も。


「みつなり」

名を呼ばれ、今度こそ声の主をたどった。そうだ、貴様だ。貴様が奪わなければ、いっそ貴様と出会わなければ、私はこんなに弱い私を知らなくても済んだのに。憎い、憎いぞ、ああ、どうして。どうしてきさまは。

「ころしてやる、徳川家康」

私と生きてはくれなかった。


2016/09/21/15:02


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -