*王闇前提赤→青(童話)




宝石の数々で飾られた豪華な大広間に、彼は居た。各国の貴族を集めて開かれた社交パーティというだけあって、大広間は常の厳かな雰囲気と打って変わって、実に優雅で煌びやかな空気を纏っている。
然し、彼は知っていた。この煌びやかな世界は紛い物で、虚構なのだということを。欺瞞に満ちた醜悪な世界を隠す為の、仮初に過ぎないことを。

(下らない)

壁に凭れ掛かりながら、偽りの仮面を被って腹を探り合う、曰く「談笑」とやらを眺める。
幾ら美しく着飾ろうが、その本質までは変えられないというのに、何と愚かで醜いことか。立場上仕方ないとはいえ、出来ることなら出席したくなかった。顔は出したことだし、もう帰ってしまおうか。ここのところ忙しくて、愛しの宵闇の屍揮者にも会いに行けていない。

(考えると、無性に会いたくなるものだな…)

青白い美しい相貌を思い浮かべ、小さく溜息を吐きながら目を閉じたところで、耳障りな声が聞こえて眉を寄せる。

「やあ、随分とまあ退屈そうな顔だね青の王子」
「……これはこれは赤の王子殿。好色と名高い貴殿が私に如何様な御用件で?」
「ふふ。君の耳に僕の噂が届いているなんて嬉しいな」
「自国でも貴殿の噂は絶えない故。……御用件は」

嫌味を込めて返した言葉も飄々と受け流されて、彼は内心舌打ちをする。この男は苦手だ、と心底思った。
初めて顔を合わせたときは今までにないタイプだからだろうと思っていたが、その後幾度言葉を交わそうとも一向に苦手意識は変わらなかった。無論、今でも。
苦々しい表情でさて如何やり過ごすかと思案する彼の横で、赤の王子は大袈裟に肩を竦めた。

「そんなに怖い顔をしないでおくれよ。用件…そうだな、君と話をしたかった、では駄目かい?」
「流石、噂になられるだけのことはありますね。中々面白い御冗談を仰る」

言葉とは裏腹にぴくりとも表情を変えずに言い放った彼に、赤の王子は今一度肩を竦めた。

「つれないね。まあ、そんなところも君の魅力のひとつだけれど」
「それは実に光栄。ですが、私如きには畏れ多くて身に余る御言葉です。そのような御言葉は、是非彼方にいらっしゃる姫君達に御贈りになられると良い」

遠回しに「そんな言葉は要らない」と言われ、赤の王子は小さく溜息を吐く。
本当に、つれない。

赤の王子は、美しいものが好きだった。それは表裏や性別の境目なく、兎に角美しければ何でも良かった。美しいと思ったらそれが老人だろうが子供だろうが、老若男女関係なしに誰彼構わず口説いたし、関係を持ったりもした。
然し、美人は3日で飽きるという言葉通り、何日か経つと飽きてしまうのだ。どれ程美しくとも、飽きがきてしまえば熱も冷めよう。
最も、彼が飽きると同時に、彼自身の少々特殊な性癖の所為で相手が辟易するのも原因であったりするのだが、彼の知り及ぶところではない。

何処かに見飽きることのない、麗しの姫君は居ないものか――。
そんなことを思っていたときに出会ったのが、この青の王子だった。
見目麗しく気高い青の王子は、王子というだけあって中々なびかなかった。その上、先程のように幾らアプローチしても冷たくあしらうだけで、少しも此方に傾かない。
面白い、そう思った。自分に媚びない人間も、なびかない人間も初めてだった赤の王子にとって、青の王子の存在は特殊で例外的なものだった。だからこそ、興味が湧いた。振り向かせてみたい、そう思った。

「私と会話をするということが貴殿の御用件ならば、もう十分でしょう。行かねばならぬ処が有ります故、失礼」

何と返そうかと思案しているうちに大分時間が経っていたらしい。
言葉通り去っていこうとする青の王子を慌てて引き止めると、彼は不快そうに眉を寄せて赤の王子を見た。

「…未だ何か?」
「いや。君がそんなことを言うのは初めてだったからね。親しい人でも出来たのかと思ってさ」

その言葉に益々眉根に深く皺を刻んで「貴殿には関係ありません」と言って去って行く。
それが、赤の王子の予想だったのだが。

「ええ、まあ。麗しの姫君を御待たせする訳にはいきませんから。貴殿ならよく御解りでしょう?」

「それでは、今度こそ失礼」そう言って足早に去っていく彼を、赤の王子は呆然としたまま見送り、そして――

(……っ!)

投げた言葉の返答と共に返された、柔らかく美しい微笑を思い出して、赤面する。誤魔化すように掌で顔を覆いながら、未だ高鳴る心臓に確信する。否、してしまった。

どうやら、王子様はお姫様ではなく、王子様に恋をしてしまったらしい。





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赤と青が別人の場合のイメージ
赤=軟派なチャラ男
青=硬派で生真面目







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