*冬闇冬




メルヒェンは困惑した表情で、イヴェールを見つめた。
腹部が圧迫されて、少し苦しい。息苦しさに顔を歪ませながら、窺うようにおずおずと口を開いた。

「…あ、の。イヴェール?」
「なんだい、メル君」

戸惑いがちなメルヒェンとは正反対に、イヴェールは酷く楽しげである。
歌うように言葉を紡いで小首を傾げるイヴェールは可愛らしく、メルヒェンは言葉を続けようと開いた唇を閉口させた。

下を向いて「何でもない…」と口籠もるメルヒェンに、イヴェールは「可笑しなメル君」と溢してくすくす笑った。
その和かな笑い声に擽ったさを感じながら、メルヒェンはいや、と小さく首を振った。
但し、胸中でのみだが。

(可笑しいのはこの体制だろう…!)

──この体制、とは。
ベッドに仰向けに横たわったメルヒェンの上に、イヴェールが乗っかっている状態のことである。
所謂馬乗りをされているわけだが、如何せんこの体制の意図も意味も意義も解らない為に、メルヒェンは困惑していたのだった。

イヴェールが「こういうの」と提案してきた後、直ぐさまベッドに押し倒されてしまったので、彼の提案がどのようなものなのかもメルヒェンは未だ理解出来ていない。
只只なすがままに流されている状況に、このままではいけないと思ったメルヒェンは、今度は先程よりも強い口調で「イヴェール」と声を掛けた。

「その、君は何がしたいんだい?体を疲れさせるっていうから、僕はてっきり運動か何かをするものとばかり…」
「うん、運動だよ。えっと…、メル君、この体制で何か解らない?」
「全く」

即答するメルヒェンに、イヴェールは驚いたように「あらら」と漏らすと、苦笑して頬を掻いた。
それから、訝しげな表情で見つめてくるメルヒェンの腕を徐に掴むと、「えいっ」という何とも可愛らしい掛け声と共に──、思い切り捻りあげた。

「ぃっ、〜〜〜ッ!?」
「ふふ。プロレスだよメル君!ふたりでも室内でも出来るし、中々良い案だと思わない?」

痛みに悶えるメルヒェンを余所に、イヴェールは得意気に笑ってみせた。
メルヒェンは左腕を押さえながら涙目でイヴェールを睨み付けると、楽しげなその銀髪めがけて勢いよく頭を打ち付けた。
ごん、という鈍い音が響いて、イヴェールがよろけながら後ろへと倒れこむ。

「ぃ、痛…ッ」
「…ふん、お返しだ」

目を回して額を押さえるイヴェールに、メルヒェンは踏ん反り返って鼻を鳴らす。

「頭突きなんて酷いじゃないか!それも君、力の限りやったね!?」
「やられたことはやり返すものさ。そういう君だって加減がなかったじゃないか」

「自業自得だよ」と言って外方を向いたメルヒェンに、イヴェールはむっとした顔をして頬を膨らませた。
そして、体を起こすと、その勢いのまま再びメルヒェンを押し倒した。
そのまま上に乗り上げて、「怒ったからね!」と言いながらメルヒェンの脇腹を擽りだす。

「っちょ、やめっ、あはは!くすぐったっ…ッはは!」
「僕を怒らせるからだよ!メル君なんかこうしてやるっ」
「ひっ、っはは、ごめ、ごめんってば…っ!」

イヴェールの擽り攻撃に堪らず降参の声を上げるメルヒェンだったが、イヴェールは大分ご立腹らしい。
手を止めようともせずに、子供のように唇を尖らせるとメルヒェンに向かって「ふーんだっ」と下を突き出した。
その仕草がまた妙に似合うものだから、メルヒェンは苦く笑う他ない。

散々擽って漸く怒りが収まったのか、イヴェールは満足げに笑うと、腰に手を宛てて胸を張った。

「どうだ、参ったか!」
「…はいはい、僕の負けだよ」

メルヒェンの苦笑混じりの言葉にも、機嫌良さげに笑うイヴェールに胸がほっこりと温かくなる。
知らず知らずのうちに笑みを浮かべていたメルヒェンに、イヴェールは一層嬉しそうに笑った。

「メル君、笑うと可愛いねぇ」
「…へ?それを言うならイヴェールの方じゃないか」
「ええ!?ないよ、ないない!それに、どうせ言われるなら、格好良いとかそういうのがいいな」
「それは僕だってそうだよ」

イヴェールは「それもそうだね」と苦く笑って、然し直ぐに何か思い出したように「そういえば」と天井を仰いだ。
イヴェールの視線を追いかけて其方を窺い見たメルヒェンが、訝しげに首を傾げる。

「何だい?」
「…あ、うん。何処で聞いたんだっけ、と思って」

抽象的なイヴェールの返答に眉を寄せながら、メルヒェンは今一度質問を口にした。

「…何を?」
「えっと、擽ったいところは性感帯っていう論理なんだけど。今唐突に思い出してね。本当なのかなあって」
「…聞いたことないな」

首をひねるメルヒェンの言葉に「あれ、本当?」と驚いて、イヴェールは小さく唸った。

「うーん…。何処で聞いたんだっけかなあ…。なんだろう、無性に気になってきた」

考え込むイヴェールを見つめながら、メルヒェンは至極不思議そうに口を開いた。

「そんなに気になるなら試してみればいいじゃないか」

イヴェールは大きく目を見開いてメルヒェンを凝視すると、破顔しながら「成る程!」と喜色の声を上げた。

「メル君流石だね!そんなこと欠片も思い付かなかった!」
「流石…かどうかは解らないけど、そういうのは実際にやってみるのが一番だよ」
「そうだね!…えっと、それじゃあ、早速やってみてもいいかな?」
「いいんじゃないかな?…え、というか、何でそれを僕に聞く──っ、ぁッ」

疑問を口にしている途中にも関わらず、イヴェールは露になっているその無防備な首筋へと舌を這わせた。
びくりと跳ねる体に嬉しそうに目を細めて、「本当みたいだね」と笑った。

「イヴェ、ル…?君、なにや、っひゃ、ぅ…!」

赤い舌を覗かせながら、子犬のように舐めてくるイヴェールに、擽ったいような、むず痒いような感覚を覚えて、メルヒェンは上ずった声を上げる。
その度にイヴェールは嬉しげに目を伏せて、次第にその動きを大胆にしていくのだった。












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まさかの三部構成\(^O^)/







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