*コルイド♀
*女体化注意





「──危ないッ」

振り返ったイドルフリートに掛けられたのは緊迫した声だけでなく──、甘い薫りのする、粘着質な液体だった。









その日は快晴だった。
気候も温かく快適な温度だった為に、自室に籠もっているのは勿体ないと、イドルフリートは甲板に出ていた。
同じように甲板に出て来ていたコルテスと取り留めのない話をしながら、穏やかに過ごしていたのだが。

「…酷いなこりゃ」
「……」

頭からべっとりと蜂蜜を被ったイドルフリートを見て、コルテスは盛大に眉を寄せた。
顔を真っ青にして謝罪してくるクルーを下がらせて、一先ずイドルフリートを自室へと招き入れる。

不機嫌そうに口をへの字に曲げながら、イドルフリートは髪から滴り落ちてくる蜂蜜を手の甲で拭い取ると、忌々しげにそれを見つめた。

「何故こんなものが…」

そう言って、手の甲を暫く眺めていたかと思うと、徐にそこに顔を近付けた。

「…ん、あま…」

そのまま舌を這わせて蜂蜜を舐めとり出したイドルフリートを、コルテスはぎょっとした顔で見つめ、次いで慌てたように目を逸らした。

(──うわ、)

本人にそんな心算はないのだろうが、酷く扇状的なイドルフリートのその姿に、コルテスは逸らした視線をうろうろと彷徨わせながら誤魔化すように口を開いた。

「と、取り敢えず、洗い流さないとな!風呂用意してくるから服脱いどけよー」

コルテスはイドルフリートの返事も聞かず、逃げるように部屋を後にすると風呂場へと急いだ。

浴槽に湯を張りながら、コルテスは深々と溜息を吐いて頭を掻いた。

(……無自覚なんだろうなあ…)

蛇口から勢いよく流れ出る湯を見つめるコルテスは、実に複雑そうな表情をしている。

イドルフリートは時々、あのように無自覚ながらも艶やかな色香を放つときがあるのだ。
確信的な場合もあるのだが、無意識にやっている方が圧倒的に多く、しかも其方の方が意識的なときより断然艶めかしいので質が悪い。

──白肌を這う赤い舌と、それに絡む金色。
伏せられた長い睫毛は影を作り、何とも言えぬ色気を纏ってふるふると震えていた。
漏れた言葉も甘さを孕み──、

(……いやいやいや)

先程の情景を無意識のうちに思い出していたコルテスは、そこではっとした様子で我に返った。
不埒な映像を振り払うように頭を振ると、落ち着かせようと静かに息を吐く。

(男だから。美人っつっても男は男)

目を瞑って自身に言い聞かせながら、ふと思い出したように目を開けて、コルテスは動きを止めた。

(……逆に、男で良かったかも)

整った顔立ちに、裏表のないはっきりとした性格。
何をやらせてもそつなくこなすくせに、それでいて何処か危うく天然じみたところもある。
少々傲慢ではあるが、どういうわけか、なんだか可愛らしく見えてしまって憎めないイドルフリートの人柄を、コルテスは好いていたし、気に入っていた。
何より、男ながらに尋常ならざる色香を放つイドルフリートである。
彼が若し女性であったならば、落ちない自信がコルテスにはなかった。

(…うん。男で良かったよほんと)

ひとり頷いていると、何時の間にやらお湯が一杯になっていたようで、コルテスは慌てて蛇口をひねった。
タオルで手を拭きながら、そういえば急いで出ていってしまった為に、イドルフリートにタオルも着替えも何も渡していなかったことに今更ながら気が付いて、コルテスは急いで自室へと向かった。
ノックをするということをすっかり失念していたコルテスは、ドアノブに手を掛けると「悪いイド!」と叫びながら、思い切り扉を開いた。

「着替えも何もなかった、よ…な……」

──そして、目を見開いて硬直した。

「っ、きゃ、」

室内に居たのは、金髪の美しい女性だった。
緩やかな曲線を描いたふんわりとした艶やかな髪と、透き通るような白肌、それから、お世辞にも豊満とは言えないが、然し形の良い小ぶりな乳房。
小さな口から零れた悲鳴も甲高く、可愛らしい。
着替えの途中だったのか、中途半端に腕にシャツを引っ掛けた状態で固まっている美女の瞳も、驚愕に見開かれている。

コルテスは暫く放心していたが、彼女のその妙に馴染みのある声と纏った服に、まさかと思いながらまじまじと美女の顔を見つめて──、呆然と呟いた。

「……イド…?」

途端、弾かれたように肩を跳ねさせて、胸元を隠すようにシャツを手繰り寄せると、美女──基、イドルフリートは、鋭い目線でコルテスを睨み付けた。
恥ずかしかったのか、その頬は赤付き、瞳も涙で潤んでいる。

「〜〜〜っ、ノックを、し給え…!」
「…ぇ、あ、悪い…。え、ていうか、え…?おん、な…?」

混乱した様子でコルテスが呟くと、イドルフリートは決まり悪そうに目を伏せた。
窺うように上目でコルテスを見つめながら、おずおずと口を開く。

「…軽蔑、したかい…?」

未だ混乱状態のコルテスは、「へ?」という何とも間抜けな声を上げて、驚いたようにイドルフリートを見遣った。
イドルフリートは柳眉を八の字に下げ、不安を孕んだ瞳でコルテスを見つめている。

「……女、で…」

呟くようにそう言ってそれきり俯いてしまったイドルフリートに、コルテスは僅かに目を見張った。
露出した肩には金髪が絡まり、うねりながら多方に散らばっている。
俯いている為に剥き出しになった項は白く、霰になった肢体は驚く程細かった。

──嗚呼、女、だ。
比べるまでもなく華奢なその体に、コルテスは漸くそれを認識した。

何故イドルフリートがそのことを隠していたのかはコルテスの与り知るところではないが、何か事情があってのことなのだろう。
船に女を乗せるのは不吉だと言うし、不都合や危険もあったに違いない。

コルテスは小さく息を吐くと、「…あー」と口籠もりながら頬を掻いた。
それにイドルフリートがびくりと反応するのを見て、苦笑を浮かべる。

「…軽蔑なんかしないし、船から降ろすなんてこともしない。……だから、そんな顔すんなって」

そう言ってイドルフリートの頭を軽く叩くと、イドルフリートはゆるゆると顔を上げてコルテスを見つめた。

「……信用、していいんだね?」
「勿論」

安心させるように笑いかけたコルテスに、イドルフリートも小さく笑みを溢すと、ほっと溜息を吐いた。

何時になく柔らかなイドルフリートの表情にどきりとしながら、コルテスは何となく視線をずらして──、ある一点に釘付けになった。
安堵したことで力が弛んだのか、胸元を隠していたシャツがずれて隙間からちらちらと覗いていたのだ。
──胸が。

いけないと解ってはいるものの、縫い付けられたように外せない視線に、流石にイドルフリートも気が付いたらしい。
訝しげに眉を寄せた後、視線の先にあるものを理解すると、瞠目して頬に赤を散らせた。
そして、守るように体を抱き締めながら、コルテスを睨み付ける。

「…っ、デリカシーがないな、君は…!」
「いや、その、…悪い。つい…」

無理矢理視線を胸元から剥がし、申し訳なさげに眉を下げて謝罪するコルテスをイドルフリートは無言で睨み、やがて諦めたように溜息を吐いた。

「…まあ、良い。それより、好い加減べとついて不快だから洗い流したいんだが」
「入ってくればいいじゃないか」

不思議そうに「準備なら出来てるぞ?」と首を傾げるコルテスに、イドルフリートは呆れ顔で「低能だな君は」と吐き出した。

「君は私に目の前で全裸になれというのか?」
「は?いや、そんなこと言ってねぇけど」
「同じことだろう。…私は風呂に入りたいんだ」
「え、ああ、どうぞ?」
「…っ、だから!君がそこに居ると着替えられないと言っているんだこの低能っ!」

イドルフリートの怒声に漸く合点がいったらしい。
コルテスは「悪いっ」という今日だけで何回言ったか知れない謝罪を口にしながら、慌てて室内から飛び出した。
ドア越しに布の擦れる音や衣服が落ちる音が聞こえて、その生々しさに顔に熱が集中する。

暫くして室内から出てきたイドルフリートは、蜂蜜を洗い流す為風呂場へ向かったのだが、その間、コルテスは先程まで彼女が居た部屋でそれを待たなくてはならなかった。
嫌でも脳裏に浮かんでしまう、線の細い白い肢体と胸の膨らみを打ち消そうと躍起になりながら、コルテスは今後どう付き合っていけばいいか頭を悩ませた。

──取り敢えず、風呂上がりのイドルフリートを直視出来る自信はないなと思いながら。










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ぐだぐだですみません
にょたいかもすみません^O^







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