*コルイド




イドルフリートは、基本的に誰に対しても態度を変えることをしない。贔屓もしなければ媚びることもせず、分け隔てなく接する。
相手が例え貴族だろうが貧乏だろうが、男だろうが女だろうが、人間には変わらないだろう──、それが、彼の持論である。
良く言えば平等、悪く言えば自己中心的な彼の性格を、大抵の人間は受け入れ、嫌悪もせずに認めていた。
それは、彼の性格がそれだけで終わらなかったからだろう。
悪態付きながらも気遣いや思いやりを持って接するイドルフリートの不器用な対応が、その難ある性格を緩和しているのかもしれない。

然し、そんなイドルフリートの態度の所為で、深刻な悩みを抱えた男がひとり。
その男の悩みとは──。








「なあ、イド。お前、俺のことどう思ってる?」

出会い頭に上司にそんなことを言われて、イドルフリートは盛大に顔を顰めた。

「何だいいきなり」
「いいから」

何が「いいから」なんだと思いつつ訝しげにコルテスを見遣ると、予想に反して真剣な顔をしていて、少しばかり驚いた。
てっきり冗談かと思っていたイドルフリートは、少々面食らいながらも率直な意見を述べる。

「まあ、信頼はしているよ。何せこの私が大人しく下に就いてるくらいだ。多少過保護だとは思うがね」
「あー…いや、そういう意味じゃなくてよ…」

返答を聞いたコルテスは、そう言い淀んで頭を掻くと、決まり悪げに視線を泳がせた。
そんな芳しくないコルテスの態度にイドルフリートは眉を寄せると、腕を組ながら憤った。

「何だい、あの答えでは不満だと?」
「…いや、まあ…」

何時になく歯切れの悪いコルテスの物言いに焦れたイドルフリートは、腰に手を宛てると、ずい、と顔を近付けた。

「はっきりし給え」

至近距離でイドルフリートに睨み付けられて流石に観念したのか、コルテスは「わかったよ」と肩を竦めると、気まずそうに口を開いた。

「…いや、詰まりよ。イドは俺のこと好きか?ってことを聞きたかったんだが…」

目を逸らしながらコルテスが言った言葉に、イドルフリートは目を瞬かせると、「好きだが?」と不思議そうに首を傾げた。

「私が君を嫌うわけないだろう。理由もない」
「いや、うん、そうなんだが…」

あははと苦く笑いながら気の晴れない顔をするコルテスに、イドルフリートは只只首をひねるばかり。

──矢張り、求められている答えが違うのだろうか。
一向に晴れないコルテスの顔を見つめながら、イドルフリートは考え込むように眉を寄せた。

(…好き、好きか……)

コルテスのことは勿論好きだ。
彼と居ると退屈しないし、何より、そうでなければ下になんて就きはしない。
過保護なところもあるが、船長としての技量も度量も申し分ないし、いざというときの頭の回転はイドルフリートをも上回る。
人を引き寄せるカリスマ性とやらも持ち合わせているようで、彼の周囲はいつも人で溢れているし、頼りがいのある上司だと思っているが──。

「……ああ、」

合点がいった、とばかりに上がった声に、コルテスがイドルフリートへ視線を寄越す。
イドルフリートは呆れたように溜息を吐くと、やれやれ、と肩を竦めてコルテスを見遣った。

「始めからそう言えば良いものを…。本当に君は回りくどいな」

意味が解らないのか、きょとんとした顔でイドルフリートを見つめるコルテスに再び溜息を吐いて、「詰まりは、」と顔面に人差し指を突き付けた。

「恋愛感情で、ということだろう?」

得意気に笑うイドルフリートにぽかんとしていたコルテスだったが、やがて理解したのか「…あー」と声を出すと、罰が悪そうに頬を掻いて苦笑した。

「…ああ、その通りだ」

降参とばかりに手を上げるコルテスに満足げに笑ってから、イドルフリートは「では、」と意地悪く口元を歪めた。

「きちんと現わしてくれ給え、コルテス船長殿?」

うっ、と言葉を詰まらせるコルテスにくすくす笑いながら、イドルフリートは至極楽しげに目を細めて彼を眺める。
コルテスは諦めたように「…解ったよ」と溜息を吐くと、イドルフリートを真っ直ぐに見つめて口を開いた。

「…イドは、俺のことが好きか?…その、恋愛感情で」

イドルフリートはよく出来ましたと言わんばかりにコルテスの頭を撫でるが、コルテスの睨みという名の照れ隠しを受けて肩を竦める。
そして、コルテスの質問に「愚問だな」と鼻で笑うと、徐にその腕を取った。

「…イド?──、っ」

コルテスが訝しげに名を呼ぶが、イドルフリートは構わずにその手を思い切り引き寄せた。
ぐらりと体が傾いて、何をするんだと非難を上げようとして──叶わなかった。

唇に感じた、生暖かくも柔らかな感触。
思わず目を見開いたコルテスの視界に移ったのは、目を閉ざしたイドルフリートの端正な顔で。

(──嗚呼、俺、キスされてるのか)

ぼんやりとコルテスがそんなことを思っている間に、イドルフリートは唇を離した。
ちゅ、という何とも可愛らしいリップ音が響いて、その音に漸く停止していた思考が動き出したらしい。
コルテスは顔を赤くすると、それを隠すように腕で顔を覆った。

イドルフリートは平然とした顔で、「まあ、」と呟くと、コルテスに向かってにんまりと笑いながら言い放った。

「こういうことをしたいと思う位には、好きだよ」
「……っ、ソウデスカ」

コルテスは熱を帯びた顔を手で扇ぎながら、イドルフリートを見つめて溜息混じりに呟いた。

「…ほんと、お前には適わないよ」
「当り前だろう。私を誰だと思ってるんだい?」
「はいはい。俺はこんな素晴らしい部下兼恋人を持てて幸せですよー」
「…む。心がこもってないね。大体、この私が下になるくらいなんだ、好きじゃないわけないだろう。本当に君は低能だな──って、コルテス?」
「…っ、お前なあ…!」











どうやら自分の悩みは杞憂だったらしいと安堵したのも束の間。
さらりと爆弾発言をかましながら不思議そうに此方を見遣る部下兼恋人に、矢張り自分は到底適わないのだと、改めて認識したコルテスだった。









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コルイドだと基本コルテスさんが振り回されます
イドルさんは確信的なときと無自覚なときがあります\(^O^)/







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