*コルイド
*微妙にこれの続き
※ちょっと注意
満月の美しい、静かな夜のことである。
コルテスは、何時ものように自室である船長室で職務をこなしていた。
区切りの良いところでそろそろ床に入ろうと考えていた矢先に、突然物凄い勢いで扉が開いた。
ノックも呼び掛けもなしにこの船長室の扉を開くことが出来る人物など、この船にはひとりしかいない。
溜息を吐きながらコルテスが扉へと目を向けると、そこには彼の予想通り──航海士であるイドルフリートが立っていた。
仏頂面で。
そんなイドルフリートの表情を見て、コルテスはまたかと内心舌打ちをした。
最近多発するようになったイドルフリートのこの不機嫌の原因の殆どがある男にあるのだが、何故か何時も被害を受けるのは無関係である筈のコルテスだった。
被害というよりは、イドルフリートの体の良い捌け口にされているわけだが、お人好しな性格が災いしているのか、或いは彼が只単にイドルフリートに甘いだけなのか、何だか両方のような気もするが、兎に角、コルテスは毎度毎度この航海士の憂さ晴らしに付き合ってやらなければならなかった。
イドルフリートとは長い付き合いな為、その憂さ晴らしに付き合うこと自体はなんの問題もない。
なんの問題もないのだが、ひとつだけ重要かつ深刻な事柄があった。
その事柄とは──。
「コルテス!」
「…なんだ」
ずかずかと荒々しく近付いてくるイドルフリートに冷や汗を垂らしながらも、なるべく其方を直視しないように視線を外す。
返事をしなければ確実に更に機嫌を損ねることになるので、答えることも忘れない。
「わたしのそばにいろといったろう!もーわすれたのかていのーめ!!」
──うわぁ。
何時になく舌っ足らずで幼いイドルフリートの物言いに、コルテスは眩暈がした。
そして、心の底から思った。
(勘弁してくれ……!)
そう。
コルテスにとっての最重要問題とは、不機嫌時のイドルフリートの可愛さであった。
何時も余裕綽々で飄々とした、どちらかと言えば美人という言葉が似合うイドルフリートが、その余裕を崩し拗ねたように口を尖らす姿は、普段とのギャップも相俟ってかなり可愛い──と、コルテスは思っていた。
恋は盲目とはよく言ったもので、簡潔に言えばコルテスはそんなイドルフリートを前に、劣情を抑えることに苦労していたのである。
──これは不味い。
素面のときですら爆弾級なのに、その上酔っ払ってしまったらどうなるのか。
考えたくもない。
取り敢えず直視しなければ大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫だいじょ
「──うぶ!?」
コルテスが悶々としていた間に、扉付近から至近距離に移動していたイドルフリートは、必死に暗示を掛ける船長の苦心などいざ知らず。
無情にも、その頬を包んで視線を絡ませたのである。
「きみのよーなていのーが、わたしをむししていーとおもってるのか!」
ぶっすう。
そんな効果音がぴったりな表情でコルテスを睨み付けるイドルフリートに、コルテスは暫し硬直した。
潤んだ目。上目遣い。上気した赤い頬。てらりと光る唇。覗く白い歯と赤い舌。
── や ば い 。
瞬間、コルテスは反射的にイドルフリートを突き飛ばしていた。
呻き声と共に、イドルフリートがベッドへと倒れこむ。
(据え膳食わぬは男の恥じ?知るか!大体これは据え膳じゃないだろだって相手酔っ払いだし抑据え膳って女相手のとき使う言葉だしだからそう大丈夫大丈夫大丈夫)
──どうやら、パニックに陥っているらしい。
「……痛…」
暫くそのまま固まっていたコルテスだったが、聞こえてきた声にはっとして、自分が何をやらかしたのか、その失態に気付いて青ざめた。
慌ててイドルフリートの元へと駆け寄る。
「わ、悪いイド!大丈夫か!?」
「……ぅ…」
そう訊ねながら、コルテスがイドルフリートを覗き込んだ瞬間、その腕が強い力で引かれた。
いきなりのことで体勢を崩したコルテスは、小さな悲鳴と共に倒れこんだ。
イドルフリートに、覆い被さるように。
「……っ、何す、」
文句を言おうとイドルフリートに向き直り、コルテスは口を開き──、大きく目を見開いた。
「やっと見たね、コルテス」
ふんわりと。
丸で花のように嬉しそうにはにかんで、イドルフリートはそう言った。
その言葉と微笑みの破壊力といったら。
「……イドルフリート」
──流石のコルテスも、理性が切れる程だった。
不思議そうに見上げてくるイドルフリートを閉じ込めるように、コルテスは顔の横に片腕を置き、もう一方でその無防備な頬に触れた。
その手の冷たさに驚いたのか、イドルフリートの肩が小さく跳ねる。
「……据え膳食わぬは男の恥じ、ね」
そのまま指を滑らせ唇を撫でると、イドルフリートの口から小さく息が漏れる。
それに応えるように口付けると、イドルフリートの目が大きく見開いた。
「…っ、ん…」
酔っているとはいえ、流石に抵抗を始めたイドルフリートを咎めるように、絡ませていた舌に軽く歯を立てる。
「…ひ、ンんっ…」
びくりと体を跳ねさせて小さく喘いだイドルフリートに気を善くしながら、更にそれを深めていけば、次第に抵抗は弱まっていった。
酒の影響なのか快楽に弱い性質なのかは知る由もないが、「あの」イドルフリートが自分の下で乱れている──その事実が、コルテスの理性を遠方へと追いやり、本能を暴走させていた。
息が苦しいのか、涙に濡れた瞳で縋るように見つめてくるイドルフリートの口から、漸く自分のそれを離す。互いの口を結ぶように銀の糸が引いている。
「……こる、てす…?」
「…なに」
荒い息を整えながら紡がれた名前に短く返事をしながら、陶器のように白い首元に顔を埋める。
そのまま舌を這わせて鎖骨辺りに歯を立てると、イドルフリートから悲鳴のような喘ぎが漏れた。
──畜生、確かにこれは据え膳だったよ。
ベッドに沈みながら、コルテスは誰に言うでもなく胸中で呟いたのだった。
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要望があったので更に続きを書いたら、まさかのベッドシーンにもつれこんだので慌てて切りました
危ない危ない
あれ、これは…セーフ…?^O^
Rの範囲がわかりません(´・ω・`)
これは…Rなのか…?