*コルイド
*これの後日談





けたたましい音で開いた扉に、室内で剣の手入れをしていたコルテスは肩を跳ねさせた。
驚いて音のした方へと顔を向けると、数時間前に散策に出掛けた筈のイドルフリートが立っていた。

「――イドか。早かったじゃないか。っていうか、どうしたんだ?そんなに慌てて…」

呼び掛けに応じないイドルフリートを不審に思い、コルテスは剣をテーブルの上に置くと、彼の元へと歩み寄った。

「イド?」

名を呼びながらイドルフリートの顔を覗き込んだコルテスだったが、視界に飛び込んできたものに大きく目を見開いた。

「……え、」

それもその筈である。
何時も自信満々で飄々としていて、嘲笑や嘲りばかり浮かべているイドルフリートが、困惑と動揺を混ぜ合わせたような――そんな彼らしからぬ顔をしていたからだ。

そんなイドルフリートの表情を見たのは初めてで、コルテスは少なからず動揺した。それから、どう対応したものかと頭を掻いた。
この船の中では、イドルフリートの機嫌を宥めるのは船長であるコルテスの役目という、暗黙の了解があるのだ。

取り敢えず話を聞こうとイドルフリートに向き直り、返ってくる見込みはないだろうと思いつつ、声を掛けてみる。

「あー……イド?」
「……」

――やっぱり駄目か。
俯いたまま、案の定黙りを決め込んでいるイドルフリートに、コルテスは内心で小さく舌打ちをする。
幾ら慣れているとはいえ、原因が解らなければ対処の仕様がない。

イドルフリートは一度こうなってしまったら暫くこのままだし、下手に宥めようとすると更に機嫌を損ねてしまうことがある。その為、不機嫌の原因を知る必要があるのだが、この様子では到底話してくれるとは思えない。
かといってこのまま放置しておくわけにもいくまい。そんなことをしたら、クルー達に何を言われるか。

(全く、余計なことしやがって…!)

何処の誰かも知らない相手に悪態を吐いていると、不意にイドルフリートが呟きを漏らした。

「………な」
「な?」
「――何なんだあの男はっ!!」

突然、がばり、と凄まじい勢いで顔を上げて、イドルフリートは叫ぶように言い放った。
心なしか、その顔はどこか赤い。

「何故あのような低能な輩に私の貴重な時間を奪われなければならない!?その上、う、美しいだの薔薇だのエリスだの!!全く以て理解不能だ!!大体、私は男であって姫だの何だの呼ばれる謂われはないし、抑名を呼ぶことを許したわけではないのに馴れ馴れしく名前を呼ぶし何なんだあの男は本当にっ」
「解った。解ったから、落ち着けイド」

早口で一気にまくし立てるイドルフリートを落ち着かせようと、コルテスは宥めるように肩を叩く。
然し、そんなコルテスを睨み付けながら、イドルフリートは噛み付くように吠えた。

「解るものか!同性に、しかも出会ったばかりの男に口説かれた上に口付けられた私の気持ちが君に解るとでも!?」
「……何だって?」

イドルフリートが放った言葉に不審な単語を見付けて、コルテスは眉を寄せた。
イドルフリートは荒々しく大声で「だから!」と叫ぶと、自棄になったように喚いた。

「口説かれたんだよ!男に!それも一国の王子にだ!散々美しいだの素晴らしいだの言われて!やっと解放されると思ったら去り際にいきなりキスされて!何が悲しくて男にキスされなければならない!?嗚呼もう、コルテス!!」

急に名を呼ばれて狼狽えるコルテスを余所に、イドルフリートはびしりと指差しながら彼を睨み付けた。
――涙目で。

「な、なんだ」
「何故君はああいうときに限って私の傍に居ないんだこの低能!!」
「あー…悪い」
「そう思うのならきちんと謝罪し給え!大体、君は何故そう中途半端に過保護なんだ!過保護なら過保護らしく付いて回ったらどうだ!」
「…や、俺もそんな暇じゃねえし、それにそれこないだ止めろって…」
「黙り給え低能!」

最早八つ当たりである。
完全に冷静さを欠いたイドルフリートは、自分が何を口走っているのか等理解していなかった。
只、取り敢えず口を動かしていないと、先程出会った男に言われたこっ恥ずかしい言葉の数々を思い出してしまう為に、必死に言葉を紡いでいた。

「コルテス!君は私よりも仕事の方が大事だと、そう言いたいのか!」
「――は?いやいやいや、イド?お前何言って、」
「そうだろう!」
「…そんなこと誰も言ってないだろ。好い加減落ち着けって」

とんでもないことを言い出したイドルフリートにぎょっとしながらも、コルテスは何とか言葉を溜息と共に吐き出した。

(――くそ、)

潤んだ目に赤い顔、身長差も加わって上目遣い。
その上何時ものような罵倒ではなく、拗ねた子供のような物言い。
これ以上この状態のイドルフリートと会話していると変な気分になりそうで、コルテスは会話を切り上げようとイドルフリートを出口へと促す。

「ほら、疲れたんだろ?自室で休んでこい」
「……断る」
「…イド、」

頑なに突っぱねるイドルフリートにいよいよ焦れて、強く言おうと口を開いた、――刹那。

「私は此処に居たいんだ理解しろ低能!――低能なら低能らしく、私の傍に居給え、馬鹿!」
「……ば、」

(――馬鹿はお前だ、バカ…!)










ひとりになりたくないが為に言った言葉が引き金で、コルテスが理性とのチキンレースをする羽目になるとは思いもしないイドルフリートだった。









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コルテス解らん\(^O^)/
イドルさんが誰これ状態…orz







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