ゆらゆらと花の絵が描かれた蝋燭の灯りが暗闇に包まれた部屋を静かに照らす。その灯をじっと見つめていると何処か不思議な気持ちになるのはどうしてだろうか? とても綺麗な灯り。灯に触れれば確実な火傷を負う、しかしそれが分かっていても、ふと触れてみたいと思ってしまう。嗚呼、触れたいと言う気持ちと止める理性。その二つが私の頭の中で責めぎ合う。
「―ふふ、その灯りに魅せられましたか」
「ギャルソン…」
声の主はこの闇のレストランのオーナー、ギャルソン。チラリと視線を灯りから彼に移せば目に入るのはうっすらと笑みを浮かべる男の姿。暗闇の中、一本の灯りに照らされた彼の顔は肌の白さが更に強調されまた彼が纏う独特な雰囲気も普段より増している。
ギャルソンはコツ、コツ、と足音を部屋に響き聞かせ此方に近付きながら再び口を開く
「その灯りは貴女の命ですよ」
「私の命……、嘘ね」
「おや、何故ですか?」
「だって私の命はこんな綺麗な物じゃないもの。私はこの灯りの様に人を魅了する事なんてないわ」
「そんな事はありませんよ。貴女の命はその灯りの様にとても美しく見る者を虜にします」
「…お世辞が上手なのね。けれど生憎私の命なんて浅ましく醜いモノよ」
「お世辞など言った覚えはありませんが、例えば貴女の言う通りの命だとしても私は貴女の命は美しいと断言しますよ。」
コツリと足音に気付けばギャルソンは目の前に居てにんまりと口の端をあげ眼を細めながらはっきりと断言した。何故そんな事が言えるのか問うて見ればギャルソンは男にしては白くて細い綺麗な手をスッと私の頬へ伸ばし添えながら、
「理由などありませんよ。貴女の命は私にとって出来れば鍵を掛け誰にも触れさせず見させず閉まってしまいたい位大事な物…そう、その命と言う名の灯りを自らの手で摘んでしまいたいと思ってしまう位、魅力的な命だと私は思っていますから」
「ッ」
「――ああ、なら試しに今この場でこの灯りを消してみましょうか? なに、簡単ですよ。ただフッと息を吹き掛けるだけ…それで貴女が亡くなればこの灯りは貴女の命だと言う事が証明されますよ」
「そんな事…」
「私はどちらでも構いませんよ? 死んでも尚、貴女が傍に居て下さるのなら温かい貴女を抱くにしても冷たくなった貴女を抱くにしても、私は一向に構いません。例えどんな貴女だろうとも私が貴女を愛していると言う事には変わらないのですから…」
――声が、口が眼が、支配人の全てが冗談では無いと告げている。この狂気じみた愛の告白、一瞬背筋が粟立つのを感じた、が、それも良いかも知れない―そんな考えが頭の中を横切る。
彼の白い手で目の前の灯りを消す。それはそれで中々素敵な事ではないか? しかし、まだ辛うじて残る理性がそれは危険だと諭そうとしている。再び頭の中で責めぎ合う二つの考え、嗚呼どうするべきか。
そんな私の前で、ギャルソンは背筋が粟立つ位妖しげな笑みを浮かべ……
「―さあ、どちらにしますか?」
蝋燭の前で男は問う
(私の答えは……)