――アイツが居ないとベポに言われた時、嫌な予感がした。

 この街におれ達を狙う奴等がいると言う情報は事前に入っていたが、特に気にする事は無かった。狙われると言う事は海賊として名が上がったと言う証拠、なら好きに狙えば良い、返り討ちにするまで。

だが……アイツは違う。幾らおれと共に行動していても女だ、一人で居れば確実に狙われる。気付けば、おれは駆け出していた。


「――ちょっと聞いたかい? 町外れで海賊達が暴れているんですって」
「聞いたわー、しかも片方は女の子らしいみたいねぇ」
「!」


海賊、女。間違いない、アイツだ。あの馬鹿、勝手に出やがって……! 町外れと聞き足を速め、街を駆け抜ける。そして暫く駆け抜けた先、前方に柄の悪い男達が囲む中にアイツの姿はあった。


「(間に合ったか)」


愛用の武器をしっかりと持ち構え、相手の頭に強気で言葉を返すアイツは見た所、大きな怪我は無い。辺りの倒れている半数近くはアイツがやったのだろう、取り敢えず最悪な状況じゃない事が幸いか。後は助けてやれば……


「テメェ、そんな強気な事を言っていられるのも今の内だぞ。テメェを捕まえたら、泣かし、ひん剥いて俺達が充分楽しんだ後、そのままお前の船長の所に送ってやる。勿論死体でなっ! やっちまえ、野郎共!」


――その台詞は、おれを動かすのに充分だった。一斉に襲い掛かろうとする奴等を一気に能力で包み込み、驚く暇など与えずに剣撃を飛ばす。切られた所を、間抜け面で確認する奴等を哂いながら姿を現せば、奴等の表情は一気に変わった。


「フフ……随分と面白い事してんじゃねぇか」
「! て、テメェはトラファルガー!」
「ロー……?」


おれの出現に先程は違い、驚きざわめつく男達。愛刀を肩に何度か打ち付けつつ、ゆっくりと近付けば次第に奴等は言葉を失っていくのが分かる。

奴等と同じく此方を見つめる名無しを

恐怖と驚きが混じりながらざわめく奴等と空気。長刀を肩に何度か打ちつけ、ゆっくりと近付けば、奴等が言葉を失うのが良く分かる。安著した名無しの顔にも驚きや困惑の色が混じる。そんな顔するな、と思いつつも自身の血が静かながらも、煮え滾る感覚と急速に膨れ上がるどす黒い感情が混じり、おれを支配する。

「そいつを啼かして良いのはおれだけだ。気安く触るな」
「ッ、そ、それ以上近づくな! この女がどうなっても良いのか!?」


――プツ


――それは、静かな音だった。

怯えた顔で相手の頭がアイツの首にナイフを突きつけた刹那、自身の頭の中で聞こえたのは、張り詰めていた糸が切れる音。


――触るな


「在り来りな常套句だな。心配するな、おれは此処から動かねぇ」
「よ、よーし、なら」

「――お前等が動くだけだ。シャンブルス」


汚い手で、そいつに触るんじゃねえよ――


*


「ひいっ、も、もう勘弁してくれ……!」
「オイ、まだまだ付き合えよ。まだ手術は終わってねえ」


恐怖と苦悶に顔を歪ませ赦しを乞う男、周りには切り刻んでやった仲間達が転がり、辺りは血の匂いが立ち込めるがそんなモン関係無く目の前の奴を見下ろす。体の深い奥底で、重く氷の様ながらも、瞋恚が支配するおれの頭の中では、今は目の前の奴をどう痛めつけるかと言う事だけしかない。

瞋恚を表す様に視線に込め近付けば、更に歪む男の顔。これで赦すと思うな。



「次は何処にする? 足か、腕か、それとも」
「ひぃぃぃ!!」
「す、ストップストップ!」



―ガシッ



「――何故、止める」


ゆっくりと腕を伸ばし、男に手を翳した刹那、制止の声と共におれの腕に抱きついて来たのは、先程まで困惑と驚きの表情を浮かべ佇んでいた名無し。何故止める? まだ制裁は終わっていない、もっと恐怖を刻み続け後悔させてやる。


目線を眼前の男からソイツに向ければ、一瞬だけ濃くなる恐怖の色。だが、それでも怯まずに少し震えた声で名無しは、遣り過ぎだと非難した上で、相手に逃げる様促す。勿論、相手はそのまま逃げて行った。


「(勝手に逃がしやがって……まあ良い、奴の顔は覚えた。今は)」


くるりと踵を返し、名無しを見下ろせば、安堵顔に目立つ頬の傷。その傷に手を伸ばし、親指で軽く拭えば付着する血液、その温もりは、無事だと言う事を感じさせる物。


……はあ、


「……顔に傷なんか作りやがって。帰ったら直ぐ縫合してやる、勿論傷跡なんか残さないから、安心しろ」
「……うん、有難う。ロー、ごめんね、心配掛けて」
「それならベポに言え。後、これからは一人で買出しに行くな、行くなら誰か連れていけ」
「うん。そうする」
「……帰るぞ」
「うん。 ?」


頬から手を離しそのまま差し出してやれば、不思議そうな表情でその手を見詰める名無し。……本当にこう言う所鈍いな、コイツ。


溜息交じりで差し出した手の意味を告げてやれば、途端に表情が変化した。何時もと同じ様な能天気な面を下げて掴んだ手を握り返せば、緊張した雰囲気が消え、おれ達は帰路に着いた―……。








(……ちょっと出てくる)
(あれ? キャプテン、何処行くの?)
(少し手術をしに、な)


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