ハートの海賊団、と言えば結構名が知れている。正確には我等が船長、トラファルガー・ローの名前が知られているのが最大要因だ。お陰で首を取ろうとやってくる者達と戦闘になるのは必須な訳で……。


「くッ…!」
「ぐあっ!」


 街から少し離れた場所、其処で響き渡る喧騒。取り囲む様に武装した男達とその中心には一人の疲労した女。肩で息をしながらも、両手には愛用のパリーイング・ダガーを離さずに強く握り締めていた。


「(あーもう、買出しに来ただけなのにこんな目に遭うとは……!)」


思わず心中で自分の運の無さを恨んでしまう。それもその筈、偶然買出しに出た処を男達の強襲を受けたのだ。何とか町人の迷惑に成らない様に、町外れに誘導は出来たものの、流石の多勢に正直参っていた。


「(此処までは何とか凌いだけど、これ以上の長期戦はマズい……!)」


――只の買出し、そう油断していたのが仇になった。

チラリと自分の武器に視線を落とす、守りに特化している愛用の武器だが、あくまで護身用。多人数且つ長期戦には向かない。現在不利な状況に思わず、ぎりっと唇を噛み締める。

その焦りの空気を感じ取ったのか敵の一人が下卑た笑みを浮かべる。


「くくく、あのトラファルガー・ローの部下と言っても所詮は女! この人数じゃ観念するしかないなァ?」
「……言葉を返す様で悪いけど、その女相手に多人数で襲っておいて、半分近くやられているのは何処の誰かな?」
「なんだとっ……!」


嘲笑の笑みを浮かべ、言葉を返せば、船長らしき男の表情が憤怒の色に染まる。女の言葉通り、確かに多人数の強襲には成功したものの現在、その半数近くは地に伏せっていた。正しく返り討ちだ。

「テメェ……そんな強気な事を言っていられるのも今の内だぞ。テメェを捕まえたら、泣かしひん剥いて俺達が充分楽しんだ後、そのままお前の船長の所に送ってやる。勿論死体でなっ! やっちまえ、野郎共!」
「!!」


船長の合図を皮切りに一斉に男達が此方目掛けて襲い掛かる。こうなったらやるしかない、と覚悟を決め両手に力を込めた

――その瞬間



「――ROOM」



「「!!」」
「(こ、れは……!)」
「……」
「ぐあっ!?」
「ぎゃ!?」


突如全員を囲む様に現れたドーム、驚く暇も無いまま瞬時に男達の間を駆け抜ける一閃。男達は切られたと感じ各自傷を抑える、が、其処は何ともなっておらず代わりに静かな足音と不気味な笑い声がその場に響いた。


「……随分と面白い事しているじゃねぇか」
「て、テメェは、トラファルガー!」
「ロー……?」


驚きの声と視線を一斉に浴び現れたのはロー。自身の長い刀で肩をトン、トンと叩き、口元に笑みを浮かべながらゆっくりと近づく彼に男達は言葉を失う。それは女も同じだった。


「……っ」


――恐ろしいのだ。彼の周りの空気だけがぬっとりと重く、隈が出来た眼を見れば、心臓を掴まれたかの様で体中に悪寒が走る。

……何時振りだろうか、この状態の彼を見るのは。仲間達や自分と何時も居る時とは違い、正しく二つ名や巷の噂通りの姿。その恐ろしい雰囲気に固唾を飲み込み、思わず掌に力が入る。


「(……怖い)」


然し、それと同時に再認識させられる。この人が我等ハートの海賊団船長・トラガルファー・ローなのだと。


「ソイツを啼かして良いのはおれだけだ。気安く触るな」
「そ、それ以上近づくな! この女がどうなっても良いのか!?」


じわりと近付きながら彼の気迫に圧倒される船長らしき男は、急に女の腕を引っ張りナイフを首に突きつける。ぴたりとローの足が止まる、が、表情は崩さない。寧ろ嘲笑さえ浮かんでいる。


「随分と在り来りな常套句だな。心配するな、おれは此処から動かねえ」
「よ、よーし、なら」
「――お前等が動くだけだ。シャンブルス」


その瞬間、勝負はついた

−*−*−*−


「ひ、も、もう勘弁してくれ……!」
「オイ、まだまだ付き合え。まだ手術は終わってねえ」

許しを請う声、だがそんな事赦さないといわんばかりのローの声と気迫。周りには、切り刻まれた男達が、地に伏して微かな呻き声を上げている。その光景に女は言葉を失っていた。


「次は何処にする? 足か、腕か、それとも」
「ひぃぃぃ!!」
「す、ストップストップ!」



――ガシッ



「――何で止める」


ローの声に我に返り慌てて彼の腕にしがみ付けば、ぎろりと、鋭い視線が此方を向く。怖い。怖いけど、これ以上はする必要が無い筈だ。視線を外さずに只、彼を一心に見続けながら女は声を荒げる。


「遣り過ぎだって! もう相手も戦意喪失しているし私は平気だから! ほら、あんたも早く行って!」
「あ、ああ…!」



――ダッ、



その声を聞き足がまだついていた男達は、その場から慌てて走り去って行った。良かった、逃げてくれて……後姿を確認しつつ、ほっと胸を撫で下ろし彼から体を離す。暫し沈黙を続けながら男が去った方向を見ていたローだったが、急に此方を向いた。



――スッ、



「……」
「ろ、ロー?」



沈黙を保ったまま撫でられる頬。突然の行動に戸惑いながら、恐る恐る彼の名を呼べば、返って来たのは静かな声。



「……顔に傷なんか作りやがって。帰ったら直ぐ縫合してやる、勿論傷跡なんか残さないから、安心しろ」
「……うん、有難う。ロー、ごめんね、心配掛けて」
「それならベポに言え。後、これからは一人で買出しに行くな、行くなら誰か連れていけ」
「うん。そうする」
「……帰るぞ」
「うん。?」


何気なくスッと差し出されたのは彼の手。不思議な顔でその手を見詰めればローは、


「手、繋がらないのか? 今なら普通に繋いでやる」
「う、うん!」


ぱあっと顔を明るくして手を握れば、彼もその存在を確かめるかの様に握り返してくれた。その温もりに緊張が解れて行くのが分かり静かに安堵するのを感じながら、ローと女は皆が待つ船へと帰路を進んだのであった−……。




安堵と再確認
(名無し! お帰りー! おれ心配したんだからね!?)
(ごめんね、ベポ、皆)
(けど一番心配したのはキャプテンだよ、名無しが居なくて凄い勢いで走っていったんだから)
(えっ!?)
(ベポ!)





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