――先に興味を持ったのは、私の方だった。


昼休み、教室を抜けて屋上へ向かう。手には自分の弁当と途中で購買で買った小さな袋、中身はアイスで溶けぬ内にと早足で階段を駆け上がり少し立て付けの悪い扉を開けば生温かい風が吹き抜けた。




「(暑…っと、あの人は…)」




夏らしい暑さに顔を顰めながらキョロキョロと辺りを見回す。すると目的の人物は直ぐに見つかった。





「―−平和島君っ」





−ベチャ




「うをっ!?」




名を呼ぶと同時に持っていたアイスを彼の頬に付ければ、彼は当然驚き此方に顔を向けた。けど、その顔は直ぐに訝しげな顔へと変わり出てきた台詞は、





「誰だ?」
「クラスメイトの名無し 名無し。因みに初めてでは無いよ、ほら、この間折原臨也を蹴っ飛ばした」
「ああ……あン時の」





数日前、私はある事情で折原臨也の背中に飛び蹴りを入れた。


その時に私は目の前の彼と初めて会ったのだ。ま、尤も彼の方は喧嘩に夢中で顔を覚えてなかったらしいが、告げれば直ぐに思い出してくれた(多分強い印象だったのだろう)

次に自身の頬に当てられたアイスをちらりと見つめている彼に私は自分の分のアイスを取り出して、




「あげる。お近づきの印。美味しいよー、ガリガリ君(ソーダ味)」
「いら」
「それで腫れた頬を冷やしなよ。さっき、喧嘩してたでしょ? 折原と」




人差し指で自分の頬を指し、ねっと明るく告げれば平和島君は、サンキュと小さくお礼。見た目とは裏腹に意外と礼儀正しい彼にきっと両親の教育が良いんだろうなー、と密かに感心し近くに腰を下ろす。





「今日は一人なんだね」
「あ?」
「ほら、大体岸谷君と一緒でしょ? だから珍しいな、って思ってさ」
「……良く知ってんな」
「平和島君、目立つから。つい見ちゃうの」




端整な顔にスラリとした長身、蜂蜜色のふわふわとした綺麗な髪。眼を惹く容姿だからなのか、つい眼が追っちゃうんだ。と、へへと笑えば、照れたのかぶっきら棒に、




「…そうかよ。つーか、お前」
「ん?」
「……俺が怖くねぇのか?」
「んー? ああ、噂の事?」



噂、それは彼が入学する前から私の耳にも入っていた。常人以上の力で自分に喧嘩売ってきた奴は返り討ちにする、とか色々な噂、私も実際目にするまで半信半疑だったけど、この間の一件でよく分った。


けど、




「全然怖くないよって言ったら信じてくれる?」
「…」
「そりゃこの間は驚いたけど、それが何だって言うのさ。世の中には色々な人がいる、人とは違うからって何で敬遠しなきゃいけない訳? そんなの可笑しいじゃん」



全員が全員同じだなんてそんなの在り得ない。何も『普通』が本当に『普通』だとは限らないし、たった一つの見方で全てを決めたくない、色々な視野で物事を見たい。



「だから、私は平和島君の事怖くない。寧ろ出来れば友達になってもらえると嬉しいな」
「俺と友達になりたいなんて、お前変わってンな」
「うん、良く言われる。アンタの頭の中って幸せだねぇ、とか」
「……それ馬鹿にされてんじゃねぇか?」
「かも。けど良いの、幸せが一番! それに案外こんな人間が世界を救っちゃうかもよ?」
「くっ、何だ、それ」




胸を張って堂々と告げれば平和島君はぷっと吹き出し笑い出す。む、失礼だな。でも初めて見た笑顔はとても噂で聞いた『自動喧嘩人形』とは程遠い物で、何処にでも居る普通の高校生の顔。やはり、噂は噂、鵜呑みはいけないなー。

笑う彼を見ながら一人思案していると一頻り笑ったのか平和島君はうっすら浮かぶ涙を拭いながら、私の顔を見て





「あー…こんな笑ったのは久しぶりだな。っと、悪い、笑って」
「全然、寧ろそんなに笑って貰えれば本望。ほら、笑う角には福来るって言うし、笑うって悪い事じゃないしね」
「お前って本当変わった奴だな。けど、もう俺に関わらない方がいいぞ」
「何で?」




首を横に小さく傾ければ、平和島君は少し困惑した顔でその場を立ち上がり、言い難そうな声で




「昔から絡まれる性質だからな、お前まで巻き込んじまう可能性だってある。だから俺には近付くな」
「…」
「……悪いな、折角ダチになるって言ってくれたのによ。じゃあな」





若干眉を八の字にして苦笑を浮かべ謝罪した平和島君は片手を上げて別れの挨拶を告げると背を向けて扉の方へと歩き出す。段々と遠くなる背中に不意に私の中で何かが膨らむ。




―駄目だ、このまま行かしては。



扉まで後数歩と言う所になった刹那私は彼の名字を呼んでいた。




「……平和島君!」
「?」




―−その寂寥感漂う背中を只黙って見詰め見送る等私には出来ない。その場から立ち上がり駆け足で彼の前へ立ち彼を見上げる。そして、





「ごめん、その忠告聞けない」
「は?」
「巻き込まない様にしてくれるのは有難いけど、私は貴方と友達になりたい。だからこれからも遠慮無く声を掛けさせて貰う。でももし、本当に迷惑ならその時は遠慮せず言ってくれて良いから」




きっぱりと明確に自身の気持ちを告げる。恐らくこの一方的な我侭に困っているだろう、けど重要なのは目の前の平和島静雄と言う人物に興味を持った事。悪いけど私は自分の意見を変える気なんて毛頭無い。


すると平和島君は、あー…と後ろ頭を少々乱暴に掻きながら大きな溜息を吐き、若干強い眼差しで、




「……大怪我させちまうかも知れねぇんだぞ」
「極力迷惑にならない様にする。こう見ても運動神経は良いから。それに万が一怪我したなら、それは自業自得、平和島君の忠告を聞かなかった私が悪い」




戸惑い気味の声にも私は強気な姿勢を変えず、答える。我ながら強情だな、と頭の何処かで冷静に考えている自分が居るが気にするもんか。

答えた後只黙って彼の眼を見続けると暫くして彼は何かを諦めた様に両肩を落し、強情な奴だな、と小さく呟き背中をくるりと踵を翻し、




「……勝手にしろ」




と、吐き出す様に呟いた。その声は半場自棄気味だったがそんな事関係無く私は強く頷き、これから宜しくね! と一言大きな声で告げた−……。











最初は私から
(これが後の私の恋への始まりである)






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