初めてその女に会ったのは随分前。



『どんな情報でも確実に手に入れる情報屋』が居ると耳にして、暇潰し程度にソイツを呼び出したのが最初。数日後オレの前に姿を現したのは一人の女。




「初めまして、ドンキホーテ・ドフラミンゴ様。我が名は名無し、この度は私なんかをご指名して下さり真に有難う御座います」
「…」




凛とした声で紳士の様に頭を垂れる女。後ろに纏まる上物の絹の様に触り心地が良さそうな淡い色の長い髪、まだ少し幼さが残る顔に形良い唇、そして確固たる己を持つ挑戦的な眼。それがあの女の最初の印象。




「フフフフ、堅苦しいのも敬語も抜きだ。楽にしろよ」
「それは助かる。んじゃ遠慮なく」
「しかし随分と小さなお嬢チャンが来たモンだ。腕が立つ奴だと聞いたんだがなァ」
「3mのアンタからしたら皆小さいでしょう。仕事は報酬さえしっかり払ってくれたらちゃんとこなすから安心して頂戴」




まあ王下七武海のアンタなら間違い無いだろうけど、と不敵に笑う女に笑みを返し、座れよと促す。素直に座った女に目の前にある赤のワインを勧めるとこれもあっさりと口をつけた。




「随分と無防備だな? もしかしたらそのワインに毒が入ってるかも知れねぇのによ」
「そんな事しなくてもアンタは人の自由を簡単に奪えるじゃない、必要無いでしょ。それとドフラミンゴ」
「何だ?」
「出来ればそのピンクのもふもふ、外してくれない? さっきから眼が痛いのよ」




眼を押さえながらあたかも、痛いんだよとアピールする女。一瞬だけ静まり返る部屋、沈黙を破ったのはオレの声。




「…フッフッフッフ! いー度胸じゃねぇか、お嬢チャン。気に入ったゼェ!」





愉快そうに笑えば女は"そりゃどうも"と変わらない態度で返してくる。普通なら海に沈めてる所だが、女の眼には恐怖の欠片もありゃしねぇ! そこ等辺に居る女とは圧倒的に違う、何者でもあろうが態度を変えず威風堂々とする女の姿にオレは少なからず気に入った。




「どんな情報でも確実に手に入れる、そう聞いてるが?」
「それは違う。私は只の情報屋よ」
「噂には尾びれがつきもの、か?」
「そう。私が持っている情報なんて普通のモノ。例えば…」



途切れる言葉。ワインに落としたままだった視線を一度だけオレに向け、ゆっくりと口元に弧を描き艶美な笑みで




「先日アンタに取引を持ちかけた少し小柄で頬に切り傷がある悪顔の男、アンタと会う前日、ちょっとヘマしたらしく、それをアンタに押し付ける気だからやめといた方が良い。それと、その時に貰った赤ワイン、猛毒が入ってるから捨てたほうがいいわよ」




サラリと告げられた女の内容は全て当たっていた。取引を持ちかけた男の風貌、内容、ワイン、どれも当たっている。其処までなら普通の情報屋でも手に入る情報だろう、だが驚くのは其処じゃない。




「ま、けど心配は要らないか。だって、その男はもうこの世に居なくなったんだから」
「フフフッ…何処が只の情報屋だ」




女の言う通りその男は直後殺した。理由なんざ覚えてねぇが、ムカついてたからな。勿論目撃者なんて居ない、




「当たり前よ、私は只の情報屋。けど、報酬に見合った仕事は必ずするわ」
「!」




ナイフの様に鋭く信念を宿す黄色の双眼がオレを貫いた刹那、ざわっと確実に騒いだ胸。何かが駆り立つ様な感覚。


「……フフッフフ(こりゃあ、)」




たった一度、されど確かに感じた胸のざわめき。直感、いや最早本能と呼ぶべきか確信が既にオレの中に存在し、認めると同時に、ニイッと上がる口端。




「…まさかこーんな嬢チャンになァ。おい嬢チャン」
「? 何よ」
「専属契約、組んでやる。報酬はテメェの好きな額だ。その代わり一つだけ条件がある」
「条件? ッ!」





―ガチャン!





派手な音を立て毀れる赤。ぽたり、ぽたりと滴り赤に染め上げる絨毯なんざ、眼も繰れず女の顎を掴み一気に唇が触れそうな距離まで引き寄せ、オレは言い放った。





「この先一生オレの専属になれ」










(…生憎だけど、私は誰とも専属契約しないわ)
(フッフッフッ、そう簡単には落ちやしないか、まあいい。絶対ェ落としてやるから覚悟しろ)







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