−最初にその写真を見つけたのは古市だった。


姫川宅に足を運んだ初日、必要最低限な物しか置いていないごくシンプルな部屋の端に置かれた一つの写真立て。

何気なくその写真立てを手に取り、覗き込んで見ると其処に写っていたのは少し幼さを残した少年と仲良さそうに彼の肩に腕を回し笑っている一人の女の子。




「(誰だ? この人)」




少々不機嫌そうな表情を浮かべている男の子に古市は少し引っ掛る所があった。何処か見知った顔、暫し思案していると古市の脳裏に一つの閃きが冴え渡る。それと同時に部屋の主人である姫川本人に若干興奮気味の声で





「ひ、姫川先輩これって姫川先輩ッスか!?」
「「ん?」」
「あ?」





突如上がった声に他のメンバー達も古市に振り返る。呼ばれた姫川本人も振り返り古市が高く掲げる写真を見た瞬間、急に眉を顰めチッと舌打ち。
見られたくなかったのか苦々しい顔で渋々認めると古市は驚愕の表情を浮かべ、更に興奮した声で、




「じゃ、じゃあこの隣に写っている女の子って彼女ですか!?」


刹那、仲間達の表情が驚愕の色に染まり一斉に古市を囲む様に集まる。そして、古市が持っている渦中の写真を覗き込む、その中でも逸早く反応を示したのは夏目だった。




「へぇー、結構可愛い子じゃん。姫ちゃんも隅に置けないねぇ」
「……可愛い」
「確かに綺麗と言うより可愛い感じね」
「けっ、お前こういうのが好みなのかよ」
「まさか、姫川先輩に彼女が居たなんて…!!」




夏目の言葉を皮切りに次々と騒ぎ出すメンバー達、その姿は中学生の様だが当の姫川は否定も肯定もせずに呆れ顔で見るばかり。その間にも話は写真の彼女の年齢の話へ





「見た所ちょっと年が離れてるみたいだねぇ、姫ちゃんと彼女」
「高校生ッスかね!? それとも大学生!?」
「あー…この時、竜が中1で私は高2かな」
「高2って、それじゃ今は大学生か社会人!? 年上のお姉様じゃないッスか! ヒルダさんとは逆で可愛いくて年上なんて羨まし過ぎるッ…!」
「いやいや、可愛いだなんて照れるな〜」





――ん?





「って、ああッ!?」



はた、と一度会話が止まり一斉に振り返れば其処には明らかに居なかった一人の女性が。それは正に今見ていた写真の女性で皆驚きの表情。中でも一番食いついて来たのは古市、真っ先に彼女に近づき




「ほ、ほほ本人登場!? て言うか写真で見るよりずっとお綺麗ですね!」
「お世辞が上手いねぇ、今の子は。ね、竜」
「「竜!?」」




名前呼び!? つーか愛称!? そんな声が他のメンバーが囁く仲、そんな事気にせず写真の女は姫川に近づく。当の姫川は溜息交じりで




「勝手に入って来るんじゃねぇよ」
「チャイム鳴らしても気付かなかったじゃない。しっかし、竜に友達がこんなにいたなんてねぇ…お姉さん嬉しいよ!」
「友達じゃねぇ。大体なにしに来た?」
「どうせ竜の事だから碌なモン食べてないんじゃないかと思って、御飯作りに」




御飯を作りに!? 親しげな二人に益々盛り上がる他のメンバー達。

と、そんな中夏目が彼に姫ちゃん、彼女紹介してくれない? と告げれば姫川は面倒なのか気だるそうに再びチッと舌打ちし渋々とした口調で




「……馴染みだ、幼馴染」
「挨拶が遅れてご免なさい。初めまして、私は名無し 名無し。竜とは昔からの幼馴染で今はこのマンションに住んでいる者です」




宜しくね、と優しげな微笑を浮かべ自己紹介をする彼女に興奮覚めあらぬ様子の古市は我先にと真っ先に声を上げる。




「古市 貴之です! 失礼ですがお年は?」
「22、因みに社会人です」
「22! み、3つも年上で可愛くて幼馴染で近所のお姉さん……! これなんてエロゲー!?」
「心の声が出てるわよ、馬鹿市」




興奮が最高潮なのか小刻みに身体を震わせ呟く古市に、嫌悪の色を浮かべ突っ込むラミア。その様子を微笑ましそうに見詰めている彼女に夏目は人の良さそうな笑みを浮かべ近付き




「それで今日は、何を作りに来たんですか? 名無しさん」
「今日は肉じゃがにでもしようかなーって思ったんだけど」
「けど?」




不自然に言葉を止め、ゆっくりと確かめる様に他のメンバーの顔を視線を動かし一度小さく、ん、と頷きニッと笑い




「こんなに友達が居るならカレーにしようかな! まあ皆が食べるなら、だけど」
「「!!」」
「はい、オレ食べます! 勿論食べますとも!」
「良かった。なら、何人か支度手伝ってくれるかな?」
「あ…私、手伝います」
「ウチもウチも!」
「なら、アタシも」




名無しの提案に真っ先に古市は手を挙げ賛同し他の女性陣も彼女の手伝いを買って出る。

突然現れた自分を快く受け入れてくれる事に感謝し彼女は女性陣+古市を連れ台所へ。その途中まるで思い出したかの様に、あ、と声を出し今までの経緯を黙って見ていた姫川へ向け、一言。




「良い? 竜」
「……勝手にしろ」
「有難う」




はあ、と大きく溜息を落とし諦め口調の彼の答えを聞き彼女は感謝の言葉を述べ、今度こそ台所へと姿を消した。






*





「……で、本当の所はどうなの? 姫ちゃん」
「何がだ」
「姫ちゃんが彼女の事好きかって事」




じっと彼女達の背中を見送った男性陣の中で夏目が姫川に問い掛ける。だがその語気は本気かそれともからかうモノなのか判断し難い。しかし、その事など気にせずに姫川は夏目に背中を向け何時もと同じ口調のまま




「んな事あるか、さっきも言った通り昔の馴染みだ」
「ほぉー馴染みか。只の馴染みなのに未だに写真なんか持ってんのか、聞きてえな」
「あ?」
「女々しく持ってる理由があるンじゃねぇのか?」
「……何だ、神崎。ケンカ売ってんのか?」




妙に絡んでくる神崎に苛立ちが募る姫川が神崎を睨みつける。一触即発な雰囲気に慌て出す城山は夏目にお前も止めろと視線を送るが夏目本人は止める気が無いらしく、只傍観ばかり。


暫し重苦しい沈黙が続くが、それは姫川の嘆息によって破られた。




「その写真はアイツが勝手に置いてったモンだ。捨て様とすると煩いからそのままにしてあるだけだ」
「ケッ、そうかよ」
「にしても随分彼女に頭が上がらないみたいだけど、何か理由でもあるの?」
「……小せぇ頃からの付き合いだからな」




そう小さく呟いて姫川は再び口を噤む。必要最低限の情報しか開示しないその様子に夏目はその先を詮索するのを止めた。それ以上は無粋だと感じ取ったからなのかも知れない。

すると今まで黙っていた城山が雰囲気を変えようとしたのか口を開いた。



「そ、そう言えば彼女は良く御飯を作りに来るのか?」
「勝手に押しかけて来るンだよ。どーせ碌なモン食べてないだろって」
「あー…確かにお前の家の冷蔵庫碌なモン入ってねぇもんな」
「テメェ、来て早々冷蔵庫漁った癖に……いーんだよ、腹が減れば適当に電話すれば届く」
「それが心配なんでしょ、彼女は。良いじゃない、そーやって世話焼いてくれる人って貴重だよ?」




先程の重苦しい空気から一転、和気藹々と世間話をする面々。それから数時間後、食事を作りに行った彼女から声が掛かるまで和やかな時間が過ぎ去っていった……。











世話焼き登場
(ほら、皆座って座って!)
(……美味しそう)
(くっー! 年上のお姉様の料理が食えるなんて)
(涙まで流して…本当キモ!)







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